0153 店の個性(2018.03.11.

何度も書いていることだが、自分はジャズを聴き始めたのが遅いこともあり、アナログ盤でジャズを聴くということに拘りがない。どのみち好きな1950年代後半から1960年代前半頃の音源は遡りであり、リアルタイムで聴いてきたわけではないので、手軽にお安くCDで楽しむことにしている。どうしてもアナログ・レコードで聴きたいものや、アナログ盤のほうが安く入手できたものだけ、400枚ほど店に持ち込んでいるのである。従って聴いている量のわりにジャズのアナログ盤は少ないのである。もちろん現代ブルーノートのノラ・ジョーンズやロバート・グラスパー関連のものは全部揃っているし、マイルス・デイヴィス、チェット・ベイカー、ソニー・ロリンズ、ズート・シムズ、ビル・エヴァンスといったあたりの好きな盤があれば十分というわけだ。

 

しかし、自分の好きな盤があれば事足りるという訳にいかないところが、音楽を聴かせる店の悩みでもある。ジャズ好きのお客さんがいらしたときに、好きなミュージシャンの盤が全くないのも申し訳ないので、ある程度有名どころの代表作や人気盤は揃えてある。それもスペースのことを考えると、限界点は驚くほど低い。そういった意味では、決してジャズ好きのお客さんの満足が得られる店ではない。デジタル音源はHDDプレイヤーにある程度搭載してあるので、有名どころの音源はほとんど聴けるだが、そういったシチュエーションで積極的にデジタル音源を鳴らす勇気はない。ロックの場合、1960年代1970年代は概ねアナログ盤で揃えてあるし、1980年代が好きなお客さんはほとんどアナログに拘らない。映像の時代にアナログ盤に拘る理由がないということか。面白い。

 

最近特に強く思うのが、その時代の音源はその時代のメディアで聴きたいということだ。1980年代からはMTVやベストヒットUSAVHSやベータマクスのヴィデオテープに録画するというスタイルで、音楽を映像で楽しむというスタイルが一般になってきた。従っていくら音が好きだといってもアナログ盤だけでは満足できず、やはり映像が観たくなる。1990年代以降は、CD-RMDなども登場して、カセットテープよりもさらにコンピレーションを楽しむ環境が整っていったし、CDもリマスタリングの技術が向上し、CDの音質が飛躍的によくなった。レッド・ツェッペリンのボックスセットの音のよさは、北米でも騒ぎになっていた。自分は1991年にバンクーバーで購入したが、店のスタッフが「素晴らしい音質だ、きっと驚くよ」ということを興奮気味に言っていたことが忘れられない。

 

21世紀になってからは、DVDやブルーレイのディスクも一般的になり、その一方でアナログ・レコードが復活してきた。また一方でダウンロードが出てきて、メディアという概念がなくなるとは想像すらできなかったが、ヴァリエーションが豊富になったと解釈している。好きなものを好きなスタイルで使えばいい時代になったと考えている。手軽にPCで音楽を聴くこともできるようになったことは、データベースによる情報管理が可能になったこともあって大歓迎だった。主要メディアは時代とともに変わることは避けられないだろうが、アナログ・レコードのように復活するメディアというものは他になく、それだけ魅力的だったということなのだろう。さて、時代の隙間の闇に葬り去られたレーザーディスクをどう解釈し、どう処分するか、あまり考えたくない問題もあることはある。

 

自分にとってジャズという音楽は、セピア色の記憶とともにレトロな感覚を纏ったものではない。入口はクロスオーバー/フュージョンで、AORやワールドミュージックとの境界線も曖昧なまま、ロックと同じ感覚で聴き始めてしまった。デヴィッド・サンボーンやスパイロジャイラあたりがきっかけでズブズブにハマり、渡辺香津美やパット・メセニー、リー・リトナーなどで幅を広げていった。薦めてくれた先輩がおり、ソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」だけは例外的に早くから聴いていたが、本格的にジャズを聴き始めたのは1990年前後である。ブルーノートの輸入盤CDが一枚800円程度、中古盤だと300400円程度で買えたので、好きなフュージョン系ミュージシャンのルーツを探る感覚で買いあさったのである。その一方で、安く売られているアナログ盤でコレクションを拡充していた時期でもあり、ブルースにも一時期ハマったりしたので、常にカネはなかった。アシッド系を探求したくても、思い切り行けなかった苦い思い出でもある。

 

さて、GINGER.TOKYOでは、不思議なほどブルーノート盤が人気だ。誰が引っ張り出してくるのか、ハンク・モブレーやリー・モーガン、アート・ブレーキーなどの、いかにもブルーノートといった音がよく流れている。そのせかい、よく勘違いされてしまうのだが、ウチは間違ってもジャズ喫茶ではない。ジャズに拘りもなければ、喫茶店でもない。ジャンルに拘らず、いろいろかかっているランチ屋でありイベント・スペースである。これはオーナーの意向ではない。お客さんの要求が反映してそうなっていると考えている。同様の飲食店は多いと思うが、結局のところ、店の個性はお客さんが決めるものである。

 


   

         
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