0155 爽やかすぎた80s2018.03.25.

毎月恒例のトーク・イベントが盛況で、何だか面白いことになっている。テーマとする年が70年代後半から80年代前半あたりが人気ということなのだろうか。お客様と話していて、やはり80sが好きという方の多さに驚かされるが、自分は70sの人間なので、どうにも反応に苦慮することがある。1971年以降はリアルタイムに洋楽を聴き続けてきた人間なので、80sの音楽だって当然人並み以上に詳しいわけだが、思い入れが70sと格段に差があるのだ。特に自分の場合、アナログ・レコードが好きということもあり、映像の時代とも言える80sは、MTVやベストヒットUSAの思い出で十分という気がしているのだ。特に後半はアナログ・レコード不遇の時代に突入していくわけで、気分的にも醒めているのである。

 

今後もイベントを続けていって欲しいという要望を頂戴することが多く、80sに対する期待の大きさに驚かされるわけだが、こちらもいい加減にできない性格のため、チラシ作りからそれなりの時間を割いて取り組んでいる。とりあえず、80s前半、1981年から85年までの主だったヒット曲や好きな曲を抽出し、7インチ盤があるものはそのスキャン画像を、ないものは昔作ったデータベースからLPの画像をコピーしてきて集めてみた。何とも懐かしい曲のスリーヴが並んでいるので眺めているだけでも楽しい。並行してビルボードの年間Top100の動画などもダウンロードしているので、部分的には音源にも触れるが、イベントでかけて面白いものを抽出する作業はじっくり時間をかけないといけない。この時点では、あくまでもヒット曲のジャケットを並べたチラシ作りのための作業である。

 

そこで気になったことは、やはり時代とともに、ジャケット・デザインも変遷しているということだ。60sは思い切り古臭く感じるし、一般的に写真のクオリティが低く、タイポグラフィ、つまり文字によるデザインが大きなウェイトを占めている。70sからはテキトーなものもあるが、それなりにアートと呼べるものも増えてくる。この辺は個人で感じ方に差があるだろうが、写真もただのスナップみたいなものから、凝った構図のものが増えてくる。クオリティも格段に向上する。70sも前半は玉石混交といった印象だが、後半になるとアートと呼べるジャケットが増えてくる。パンクやニューウェーブは稚拙なデザインでイメージを作り上げている面もあるが、それなりに尖がったデザインのものも多く、意外に楽しめる。そして気になったのは、映像の時代、80s以降のデザイン力の急上昇だ。

 

今回、ジャケットのデータを集める作業の中で、あらためて3人のイラストレーターに関する情報を整理した。80sテイストというものを語るときに、案外重要な要素なのではないかと思うのだ。3人とは、鈴木英人、永井博、わたせせいぞうのことである。名前を目にしただけでカラフルで爽やかなイラストを思い出してしまう方も多いのではなかろうか。自分の場合、バブル経済華やかなりし頃、モダンアート、ポップアートといったものに随分ハマっていたのだが、そこで夢中になったのはアンディ・ウォホールであり、リキテンシュタインであり、ヒロ・ヤマガタやラッセンといったところだった。それでも、趣味の基軸に音楽が厳然として存在する自分にとって、鈴木英人や永井博のイラストはもっと重要な意味を持っていたように記憶する。

 

AORブームの最中、1983年にリリースされたラリー・リーの「ロンリー・フリーウェイ Marooned」は正直言ってジャケットの魅力だけで買った一枚だ。カントリー・ロック・バンドであるオザーク・マウンテン・デアデヴィルズのヴォーカルだったラリー・リーが、妙にお洒落に感じられたのは、絶対的に鈴木英人のジャケット・アートのせいである。本国ではひげ面のジャケットのせいとは言わないが、全然ヒットしていない。この盤がAORの名盤としていまだに語られるのは、日本独自のジャケットによるイメージ戦略の賜物だろう。鈴木英人のイラストは、ヒューイ・ルイス&ザ・ニューズのファースト「ベイエリアの風」でも日本独自のジャケットとして採用されている。そして何と言っても、80年代を通してダイヤモンド社の隔週刊情報誌「FM STATION」の表紙を飾っていたことが懐かしくもあり、自分にとっては80sのイメージそのものになっている。

 

永井博のイラストも忘れられない。大瀧詠一の「A LONG VACATION」をはじめとしたナイアガラの諸作と言えば誰もがわかるものだろう。サザンオールスターズや松岡直也のイラスト・ジャケットでも、海辺やプールサイドのシンプルなデザインが爽やかなイメージを作り出していた。そして「ハートカクテル」のわたせせいぞうも80sを語るときに忘れてはならない一人だ。バブル期のイメージが強すぎて、その後あまり見ないようにしていた時期もあったが、やはり懐かしいし楽しい。コカコーラのCMほどではないかも知れないが、今見ると爽やかすぎて悲しくなってしまうことが困りものだ。自分にとっての80sとは、3人のイラストが代弁してくれる、爽やかすぎた時代なのである。

 


   

         
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