0156 AORとは(2018.04.01.

ここにきて、何がAORなのか明確ではないということを再認識している。「アダルト・オリエンテッド・ロック」ということだが、クロスオーバー、フュージョンから軽めのロックまで結構広い範囲の音楽を指すようで、案外AORの捉え方は個人で差があるようだ。代表的なミュージシャンというとボズ・スキャッグスやボビー・コールドウェル、クリストファー・クロスあたりとなるのだろうか?1980年代のシカゴもそうだし、ラーセン・フェイトン・バンドも人気があった。クオーターフラッシュやキム・カーンズも同様だ。

 

如何せんTOTOAORと言った時点で、対象とする範囲がいい加減になる。初期は相当ハードなギター・ロックでもあるわけで、どこがアダルト・オリエンテッドなのさという気になってしまう。ファースト・アルバムの「ジョージー・ポージー」やセカンドの「99」あたりは、純粋なAORと言っても過言ではないだろうが、「ホールド・ザ・ライン」や「ハイドラ」などはハードロックとしても十分通用するし、何よりもサード・アルバムは完全にハードロックだ。4枚目で一気にポップになってしまったが、「ロザーナ」や「アフリカ」はAORを代表する名曲である。スティーヴ・ルカサーはハードロック・ギターを弾かせても、AOR的なバラードを歌わせても、極上評価が得られる人間なのでこういうことになってしまうのだろうか。

 

他にも時代によって音が大きく変わってしまうミュージシャンはいる。アルバム単位で言えば、多くのミュージシャンが時代とともに変わっていくのは当然なわけで、別段ここで語ることでもないのだが、極端な例があるのだ。熱いブラスロックのバンドとしてデビューしてきたシカゴが、ある時点からAORに転向しラヴ・バラードをやるようになってしまったことなどはその典型だ。ジェフ・ベックも大きく音が変わる人間だし、ドゥービー・ブラザーズもマイケル・マクドナルド加入後は一気にAOR化してしまったわけで、その前後がどちらも好きな自分はよかったとも悪かったとも思わないが、同じバンド名を名乗る必要があったのかは疑問である。マイケル・マクドナルド個人も、単純にバラードを歌わせたら上手い人から、ソウルフルなヴォーカルに磨きがかかって行ってしまうわけで、その辺の変化は今になって振り返ってこそ面白くもある。

 

そう考えると、AORというのも微妙な立ち位置の音楽だ。ロック全盛の中、ソフトなヴォーカルなどが特徴的ということで括られていたものが、世の中のメイン・ストリームがR&B化して行ってしまう中で、一過性のブームのように語られてしまうことになる。別にソウルフルなヴォーカルやらR&B的要素を意図的に排除していたわけでもなかろうが、結果として黒っぽくない音や声がAORの代表的なものとして語られることになっていったように思う。ネッド・ドヒニーやロビー・デュプリーなどが、AORの代表的なものとして挙げられる理由はその辺にあるのではないかと思うのだ。前回も触れたラー・リーやジム・メッシーナも同様ではなかろうか。

 

ここのところ、自分のトーク・イベントが1970年の終盤に至り、1980年代前半の準備を始めたことで、AORのアルバムも耳にする機会が増えているのだ。そんな中で、TOTOもアナログ盤でリリースされていた7枚目あたりまで振り返ってみたし、ケニー・ロギンスやマイケル・マクドナルドのソロ・アルバムも一通り振り返ってみた。その結果得られた印象は、やはりハードロック的なギターの音が意外なほど入り込んでいるということなのだ。1980年代は、何だかんだ言ってヘヴィメタル・ブームの時代でもある。LAメタルも随分聴いたものだ。スティックスもやたらハードな曲があったし、人気があったラヴァーボーイやナイト・レンジャーなどは生粋のハードロックだ。その部分に目を向ければ、AORでもハードなギターの音が鳴っていて、何ら不思議ではない気もしてしまうのだ。

 

そして極めつけの一枚があった。デヴィッド・フォスターとジェイ・グレイドンのユニット、エアプレイの「ロマンティック」だ。TOTO組からは、スティーヴ・ルカサー、デヴィッド・ハンゲイト、ジェフ・ポーカロ、スティーヴ・ポーカロが名を連ね、さらには超絶技巧派ハイトーン・ヴォイスのトミー・ファンダーバークをヴォーカルに据えていたのだ。アルバム全般を通して、デヴィッド・フォスターの軟弱でメロディアスなキーボードに、ハードロック・ギタリストも黙らせてしまいそうなジェイ・グレイドンのうるさいギターが切り込んでくる。これがAORとして語られるのだから、やはりロック・ベースの音楽なのだろう。ただし、ここではアース・ウィンド&ファイヤーの「アフター・ザ・ラヴ・イズ(ハズ)・ゴーン」もカヴァーされており、時代を先取りし過ぎた感もあるところが面白い。「スイート・ボディ」をはじめとした、紛れもないハードロック・チューンが痛快なAORの大名盤である。

 


   

         
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