0160 メキシカン・テイストはお好き?(2018.04.29.

前回にも少し触れたが、1979年の大ヒット曲「ライズ」の作者、ハーブ・アルパートはA&Mの創始者である。100ドルずつ出し合って創設したアルバート&モスのレコード会社は、当初自身の曲を発売するためのものだったのだ。もともとは南カルフォルニア大学でトロージャン・マーチング・バンドに在籍していたことが音楽活動のスタートとなるが、作曲者としては、サム・クックのNo.1ヒット「ワンダフル・ワールド」をルー・アドラーと共作しているので、演奏者としてよりも早い成功を獲得している。

 

思うに、この御仁、相当にいい音楽耳を持っているのだろう。ティファナ・ブラス期のメキシカンなテイストは好き嫌いが分かれるが、やはり一度聴いたら忘れられない印象的なメロディの曲が多いし、「ライズ」以降の妙に格好良くなってしまった80年代の曲も秀逸なメロディが多い。ルーツ的にはユダヤ系ルーマニア人の両親を持つ彼が、メキシカンなマトリアッチなどのテイストを上手く自分のものにしてしまったあたりが、やはりただ者ではないのかもしれない。コミカルなパーカッション使いやシンプルなリズムなど、一聴ハーブ・アルパートだとわかるような曲の数々は、何故東洋の小島のテレビ・ラジオでも大受けしたのか。日本ではおそらく最も有名な「ビター・スイート・サンバ」は、オールナイト日本のテーマソングであり、金麦のCMでやたらとフィーチャーされている。

 

ティファナ・ブラスは1960年代中期から後期にかけて大ブームになったわけだが、1970年代に入ると、全く耳にすることがなくなった。YouTubeで古い動画を観るかぎり、1975年のライヴではまだ相当に人気がありそうだ。そこから「ライズ」のリリースまで4年。この短い期間にいったい何があったのやら。あまりの変貌ぶりに驚かされるが、やはり80年代の音源では、ものによってオジサン臭さが出てきてしまう。根本はマーチング・バンド~メキシカンの延長線上にあるのだろう。

 

面白いのは、アルバム「ライズ」の選曲だ。前回も書いたように、ランディ・クロフォードをフィーチャーしたクルセイダーズのアルバムがリリースされる3カ月も前のアルバムで「ストリート・ライフ」がカヴァーされていることに加え、アタマの「1980」はモスクワ・オリンピックのために作られた曲であることや、「アランフェス」までも演っているのだ。メキシコだけではなくスペインに思いをはせ、それでいてアルバム全体のテイストは頗る現代的に感じさせたのはさすがだ。ちなみに彼の奥さんはセルジオ・メンデス&ブラジル66のヴォーカリスト、ラ二・ホールなので、彼の周辺には全ラテン系音楽が溢れていたのだろう。

 

彼のA&Mレコードからは錚々たるポピュラー・ミュージックの面々がアルバムをリリースしている。何と言っても代表はカーペンターズだろうが、ジョー・コッカーやリタ・クーリッジあたりもそうだし、ピーター・フランプトンやザ・ポリス~スティングまで名を連ねる。面白いのはバート・バカラックとの繋がりで、トランペッターとして人気だった彼も、ティファナ・ブラスではNo.1を獲得することは叶わなかったのだが、ソロ名義のヴォーカリストとしては「This Guy's In Love With You」がNo.1になっているのだ。この曲、バート・バカラックとハル・デイヴィッドのソングライティング・チームにとっても初のNo.1なのである。自分も大好きなバラードだ。決して上手いヴォーカルというわけでもないのだが、その訥々とした歌い方が歌詞の内容にマッチしていたのではなかろうか。

 

如何せん、2018年の現時点で御年83歳、自分が普段聴き馴染んでいるロック・ミュージックの連中よりも一世代上である。そういったこともあってか、彼の音楽からロックを感じることはない。「ライズ」がヒットした頃、高校で一緒にロック・バンドをやっていた友人が「あのハーブ・アルパートだろ。「ア・テイスト・オブ・ハニー」はまだ許せるけど他はなあ」と言っていたのが忘れられない。自分はポピュラー・ミュージック全般を何でも聴くのに対して、彼はロックかフュージョンしか聴かない人間だったのだ。その二人の間で決定的に評価が分かれたのがハーブ・アルパートというわけである。

 

勿論自分だって、格好良いと思って聴いているわけではない。コミカルなリズムや音作りは、日本のテレビで流すバラエティ番組のテーマソングにしか聴こえない。観衆の笑い声を被せられる類の高齢者が好きそうなやつだ。それでも、自分はハーブ・アルパートの音楽は全般的に好きなのである。印象的なメロディ、60年代のわりには意外なほどクリアな音質、そして個性。オリジナリティは疑問を呈されるかも知れないが、あるワン・フレーズを聴いた瞬間、ティファナ・ブラスだとわかるのだから、やはり凄い。どうしても笑ってしまう曲も多いし、マイルス・デイヴィスから嫌われたのも当然だろうが、1960年代の懐かしさを語る上では重要なアイコンの一つではなかろうか。

 


   

         
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