0161 悲しい報せ(2018.05.05.

何とも悲しいニュースが続いている。51日に、ギター・メーカーのGIBSONギブソンが経営破綻し、破産申告をしたという。我々の世代の音楽好き、ギター好きにとっては、憧れの二大ブランド、フェンダーとギブソンのあのギブソンだ。フェンダーのストラトキャスター、テレキャスターとギブソンのレス・ポールはやはり一度は我が物にしてみたいと思ったものだ。自分も少し余裕が出てきたときに買って、いまだに手放せずにいる。一時期は随分弾いたものだが、両方の手のひらを骨折してから楽器は手にしていない。それでも手放せないのは、やはり様々な思い出とリンクしているブツでもあるし、ロックが好きだったことを忘れたくないという気持ちの証かもしれない。

 

自分のレス・ポールは、スタンダードではない。イエローのスタジオ・ライトという軽量の安価なものだ。トップはメイプルの縞々が綺麗に出ているもので、音も悪くない。1991年のクリスマス・シーズンにニュー・ヨークに行った際に購入して持ち帰ったもので、その際、店内の何本かを試奏して、異様にしっくりくる一本だったのである。本当は前日にショー・ウィンドウの中に飾られていた着色されていないスタンダードが妙に美しくて忘れられず、無理に時間を作ってもう一度そのショップを訪れたのだが、一足先に売れてしまったのである。非常に残念だったが、このスタジオ・ライトを試奏して、その気持ちも吹っ飛んだ。機内持ち込みにさせてもらい、大事に日本に持って帰ってきたのは言うまでもない。

 

そして、もう一つ残念なニュースが昨日飛び込んできた。アナログ・レコード好きにとって特大の痛手とも言える悪い報せだ。なんとSHUREシュアが「フォノグラフカートリッジ生産終了」と発表したのである。シュアのレコード針が無くなってしまうなんて考えられない事態だ。レコードの売上げが伸びている時期に何故という気もしたが、90年の歴史を誇るフォノグラフ部門のQCクオリティ・コントロール、つまりは品質維持が難しくなったということでの部門閉鎖らしい。マイクでも有名なオーディオ機器の名門ブランドでもあり、倒産などというものではないが、さすがに残念だ。オーディオの主要メディアが、アナログ・レコードからコンパクト・ディスクに切り替わって以降も、安定供給されていた上に廉価に抑えられていた。DJさんたちがオルトフォンを愛用していたこともあって、厳しいだろうなとは予測していたが、この時期に生産終了というのは想定外だった。

 

自分はオーディオを語れるほど詳しくないが、アナログ・レコードに関しては50年近く買い続け、愛用している人間だけに、シュアの針には随分お世話になっている。ロック好きの自分にとって、音質面でもシュアが好きだった。MMタイプのM44Gというカートリッジは、果たして幾つ買い換えたのやら。交換針だけも随分買った記憶がある。同じターンテーブルでオルトフォンのものと付け替えて聴き比べてみると、実に骨太な鳴りであることが知れる。スマートなオルトフォンのコンコルド・タイプのものに比べると、途中の溝に上手く落とすことができない無骨な形状が敬遠されたのだろうか。自分のように、オーディオにあまり金をかけたくないアナログ好きにとっては、非常に有り難い存在だった。

 

音楽好きに限らず、趣味的な世界では、道具に拘ることの楽しさというものが絶対的に存在する。増してや、アナログ・レコードの世界など、針一本で随分鳴りが違ってしまう。アンプなどに巨額の資金を投入するオーディオ・マニアもいらっしゃるが、どう考えても音の入口と出口の部分が音質に影響する度合いが大きいと思う。スピーカーもいろいろ聴き比べると随分違って聴こえるので、あれこれ交換してみたくもなるが、そんな余裕はない。スペース的にも、資金的にも、そこにはあまり投下したいものではない。むしろ、絶対的な消耗品でもあるレコード針の部分は定期的に交換するわけで、いろいろ試してみる気にもなるというものだ。しかも、自分の中でスタンダードとなっているのが、長年愛用してきたシュアのMMタイプというわけだ。やれやれ、困った、困った。

 

音楽に関しては、小さなラジオから鳴っているものでも、時と場合によっては心に響くこともある。分離がよくて、各楽器の音が聴き分けられる鳴りが、絶対的に良い音というわけでもない。ロックなどというものは、ダンゴ状になってスピーカーから飛び出してくる迫力ある中低音や、突き刺さるような高音がむしろ良かったりする。デジタル音のノイズのないクリアな音の迫力の無さにガッカリさせられた経験があれば、アナログの骨太な音の魅力というものはご理解いただけるだろう。利便性という面ではデジタルには遠く及ばないアナログだが、自分の好みの音に仕立て上げることができれば、デジタルの何倍も楽しいものなのである。さて、しばらくは買い置きがあるが、シュアに代わるものが見つけられるのだろうか。レッド・ツェッペリンの「カスタード・パイ」の終盤のドラムスの音が出せる針って他にあるのだろうか…。困った、困った。

 


   

         
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