0164 ショールーム・ダミー(2018.05.27.

主に1960年代から1980年代のロックやポップスを、アナログ・レコードで聴くというスタイルが自分の音楽的嗜好の中心にあるが、それ以後もリアルタイムで音楽は聴き続けているし、デジタルを否定する気もない。使い勝手は圧倒的にデジタルの方が勝っているわけで、シーンによって使い分ければいいということを言い続けている。ウォークマンの登場で、音楽が屋外に飛び出してから40年の歳月が流れたわけだが、これほどまでに人々のライフスタイルを変えてしまうものになるとは想像もできなかった。そのことの良し悪しを自分が論じても何ら意味はないが、聴き方の選択肢が広がったことで進化と捉えるならば、決して悪いことではないのだろう。

 

ただし、他人様に迷惑をかけるような聴き方をする輩がいることを指摘されると、何とも残念でならない。もちろんホームオーディオ的にアナログ・レコードを鳴らす場合でも、ボリュームを上げ過ぎれば近所迷惑であることは、昔から変わらぬ事実である。自分も店で結構な音量を出すわけで、ご近所様から苦情がこないか心配ではあるが、いまのところ一度もお叱りを受けたことはない。諦められているだけかもしれないが、常識の範囲内で大音量を楽しむよう努めたい。問題は音量の話ばかりではなく、場違いな音楽を聴かされることの苦痛を十分に知る身として、そういうことをやらないようにしなければと思うことはある。自分の好みでかけているカフェのBGMも、聴く人間によっては苦痛になる場合も有り得るからだ。カフェでプログレッシブ・ロックが流れているから不快と言われても対応する気はないし、ノイズ系の音楽の面白さが解らない輩にとやかく言われても、自分の好きなものをかける方針を変える気はない。勿論それも常識の範囲内でのはなしだが。

 

トーク・イベントのために1980年頃の音楽を学究的に振り返る機会が多い自分だからこそ感じることかも知れないが、ジャンルの細分化によって音楽も随分先鋭化するものらしい。1970年代後半にパンクやニュー・ウェーブが出てきたときも、最初は随分拒絶反応に見舞われたし、テクノポップも物によって好みが分かれた。セックス・ピストルズが反体制云々と言われたことが、今となっては可笑しく感じられてしまう。その後の細分化しながら先鋭化していった音楽と比べると、やっていた音楽はポップで聴き易かったりするからだ。一方で、ジョン・フォックス在籍時のウルトラヴォックスの音楽など、最近のペアレンツ・コントロールのシールが貼られたものと比べても遙かに危険なのではないかと感じてしまう。音量を上げて聴くと、暴力衝動や破壊衝動を煽られるようなところがある。当時のライヴでも機材を破壊しまくっていたわけで、単なる歌詞の内容の過激さだけで規制するのもいかがなものかと思う。

 

方向性は少し違うが、「何、コレ?」といった感じでお客様が戸惑う音楽というものもある。先日来、クラフトワークを聴く機会が増えており、困っている。何せ一度聴いたらしばらくは耳から離れない。自分は脳内ループと呼んでいるが、気が付くとメロディを口ずさんでいたりする。ついつい翌日も聴きたくなってしまう。それも自制が効かないレベルでついかけてしまう。オーディオ的に意外なほどいい音で鳴るアナログのLP盤は、相当のプレミアがついており、もう手離すことはできないだろう。そもそも昔から不思議なほど高額で売られていたし、中古盤店ではほとんど見かけない。どの辺の方が支持しているのか不思議になる連中である。1974年に「アウトバーン」が大ヒットして知るに至ったが、リアルタイムでは買えなかった。数年後に同盤は入手したが、誰かに貸したまま返ってこない残念な一枚である。

 

サントリー角瓶のCMでクラフトワークの「ショールーム・ダミー」が使われたという話があるが正確なことは判らない。インターネットで検索すると、若き日の三宅一生氏が出てくるサントリー角瓶のCMが出てくるが、ここで使われているのはアラン・パーソンズ・プロジェクトの「イン・ザ・ラップ・オブ・ザ・ゴッズ」である。似たようなメランコリックなメロディなので間違われたか。しかし、おかしなことに自分の手元にある「ショールーム・ダミー」の7インチ・シングルのスリーヴには、ちゃんとサントリーCM曲と書かれているのである。この曲は1977年にリリースされた「ヨーロッパ特急 Trans-Europe Express」の収録曲でありながら、1978年の「人間解体 The Man Machine」のジャケットから人形が飛び出したような写真が使われている。この盤の裏面は「人間解体」のA面1曲目「ロボット The Robots」であり、実に豪華なカップリングである。「人間解体」のアルバム・ジャケットのインパクトは、40年経とうが薄れる気配すらない。「ロボット」は一生忘れないメロディだし、B1曲目の「モデル The Model」は1982年になって英国のヒット・チャートでNo.1になり、多くのカヴァーを生むことになる名曲だ。

 

さて、どうしたものか。サントリーのTVコマーシャルは昔から高く評価されるものが多い。まとめて観ることができる動画もYouTubeにアップされている。しかし、「ショールーム・ダミー」が使われたものは見当たらない。自分は昔からテレビを観る習慣がないので、当然ながら記憶にない。その辺の事情に詳しいお客様も来店するが、あまりクラフトワークを頻繁にかけるのもいかがなものかと思う。アシモフなとのSF小説の古典を読むように、あまりにも早すぎたデジタル・ミュージックの先駆者クラフトワークの音楽を楽しんでいただければいいが、大抵の場合「何、コレ?」と変な顔をされてしまうのである。…ちょっとメランコリックで、忘れられないメロディの曲が多いんだけどねぇ。

 


   

         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.