0169 輸入盤の匂いが懐かしい(2018.07.01.

ウェブにおけるボーダーレス化はもうこれ以上ないというところまできているのだろうか。音楽などでいうと、新盤のリリースはほぼ世界同時発売だし、ダウンロードに関して言えば時差すらないわけで、まあ便利な世の中になったなと思う。自分が音楽を聴き始めた頃、1970年代前半は、まだ新盤リリースに関してのタイムラグが猛烈にあった。国内盤がリリースされるまでに随分時間を要したし、全米TOP40で流れているヒット曲をレコードで聴けるようになるまでは、かなり待たなければいけなかったのだ。少しでも早くアルバムを聴きたいと思いはじめ、輸入盤屋巡りを始めたのは高校に入ってからだが、チャートの上位の曲がすべて揃っている店は皆無だった。買いたい盤の候補は2~3持っていないと、お目当てのものが必ず手に入るわけではない。何年もお目にかかれない、ご縁のないレコードというものも随分あった。

 

当時はブリティッシュ・ロックが人気で、その手のものはどの店でも多めに入荷していた。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、エリック・クラプトンは大抵揃っていたし、ELPやピンク・フロイドといったプログレものも結構入手はし易かった。ジェネシスは時々見かける程度、全部が揃っている店はなかった。キング・クリムゾンも揃っていることはなかった。イエスは滅多にお目にかかれなかった。オリジナル盤で全てが揃ったのは、CDに切り替わった1986年以降だったように思う。「ロンリー・ハート Owner Of A Lonely Heart」が大ヒットして、イエスの旧作が店頭に多く並んだときにも初期のものを買いそろえたが、「海洋地形学の物語 Tales from Topographic Oceans」は、CDの時代になってしばらくしてから、値段が下がってようやく買えた。リアルタイムでレコ屋の店頭で見たことがなかったので、実物を手にしたときは妙に嬉しかった。

 

その一方で、妙にいつまでも店頭にある盤というものもあった。ムーディ・ブルースの初期やプリティ・シングスなどは、それほど人気があったとは思えないが、いつ行ってもあった。もう少しポップなものでいけば、T.REXは「ザ・スライダー」以降は潤沢に出回っていたが、「電気の武者 Electric Warriors」はなかなか見かけなかった。廉価盤が出たときに飛びついた記憶は鮮明に残っている。ラズベリーズの1、2枚目はいつでも手に入ったが、3枚目のイチゴ山盛りの変形ジャケット盤は、滅多にお目にかかれなかった。ジョー・コッカーやドノヴァン、ニルソンも、いつでも手に入るなと思っていた。

 

自分の場合、オリジナル盤への拘りがないため、本当の意味での入手困難な盤がどういうものかは判らないが、1980年代後半はそれまで手に入り難かった盤も一気に店頭に並んでいることが多くなった。このジャケットはあまり見たことがないなあというものは、状態のいいものであれば買うようにしていた。オリジナル盤は紙質が違う場合があって、既に持っている盤でも状態のいいオリジナル盤と思しきものがあれば、この時期に随分買い揃えた。キング・クリムゾンの初回盤もそうだし、エルトン・ジョンのファーストも全く手触りの異なるものを手に入れ、音の鮮明さに驚き、非常に嬉しかった記憶がある。レオン・ラッセルのアルバムもこの時期にようやく揃った。ファーストとセカンドは、状態のいいものが見つけられず、まあまあのもので妥協するしかなかった。彼の盤には全音源を集める方針でいた英国の主要ミュージシャンが参加していることが多く、長年の悩みの種であったことが懐かしい。

 

自分は子供の頃から「揃える」ことを目指していたため、データ管理には多くの時間を割いていた。今のようにウェブで情報が得られる時代ではない。月刊誌などで特集されるミュージシャンのレコードは、何が入手できていないかという情報が整理されていたが、マイナーなミュージシャンの情報はまったくもって知りようがなかった。こういった状況が劇的に改善され始めたのは1980年代に入ってからである。1981年に渋谷の東急ハンズの斜向かいにタワーレコードができたときは、嬉しい驚きに満ちており、しばらく通ったものだ。レコードの枚数が多かったことや輸入盤特融の匂いが充満していたことに加え、海外の音楽雑誌なども並んでおり、これで必要な情報が入手しやすくなるのではという期待は相当のものだった。

 

タワーレコード通いの当初は、ヒット中の新盤が充実していることが嬉しかったが、盤の反りやキズが多く、検盤して泣く泣く買うことを諦めた盤もあった(ジャーニーは全滅だった)。同じ盤が何枚も並んでいるという光景はそれまで見たことがなかったので、工場直売店のような雰囲気もあり、妙な興奮に満ちていた。この時期に随分痛い目にも遭っているので、1980年代後半に安く買い集めたものは国内盤が多くなってしまった。今でも変わらないが、当時からオリジナリティを重視して輸入盤を買うか、盤のクオリティを重視して国内盤にするかは、本当に悩ましい課題なのである。音質が随分違うことも既に分かっていたので、輸入盤の魅力は底知れないものがあった。今になって考えると、この時期にカットアウト盤の安いものが一気に流れ込んできて、嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちにさせられたことも懐かしい。ついでに言えば、レコード・ジャケットで手が切れることが増えたのもこの時期からである。

 

さて、毎月恒例のトークイベントは1982年まできた。この時期のレコードはかなり充実しているが、重さが70年代までのものと違って軽いことからも知れるように、反りにも注意しなければいけない。リアルタイムで購入したものには、キズ盤も多いことを予め断っておきたい気分でこんなことを書いているのである。

 

 


   

         
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