0170 1982 : The Year Of Great Movies2018.07.08.

トークイベントの準備をしていて、毎度悩ましいのが時間配分である。とりわけ映画関連曲だ。映画に関して豊作の年とそうでもない年があることは誰もが納得することだろう。映画そのものの出来に加えて、サントラ盤の出来というものさしもあり、さらに言えばヒットしているかいないかで紹介したときのウケ具合も違えば、当然ながら好みの問題もある。年を刻んで30曲ほど紹介する中で、絶対に外せないものもあれば、懐かしいと騒ぎになるものもある。「知らねえ~」というリアクションに満ちたときは、それなりにしっかり解説する必要もある。曲紹介不要というものがいくつもある年は、ラクなようでいて取捨選択に困ることになる。そして、ここまで言えばお分かりだと思うが、1982年は大豊作の年、ただし印象的なサントラは一部に限られるという、嬉しい年なのである。

 

アメリカでは1981年に脚本家組合のストライキがあったということで、撮影を中断せざるを得なくなったものが多く、1982年の後半は公開作品が妙に多いということになった。その結果観客が分散してしまうということにもなり、賞獲りや興行成績が他の年と比べて参考にならないと言いたくなる内容だ。この年の日本の映画館の入場者数は1億5528万人、興行収入は16952200万円となっている(wiki参照)。ちなみに比較対象として2017年の数字を見ると、1億74483千人、22857200万円となっている。近年、映画といえばシネコンということで、エンターテイメントとしてかなり楽しめる状況にはなっており、入場者数は完全に復活している。その一方で昔はよくお世話になった街中の小さな映画館は減ってしまったわけで、こういった数字を眺めるたび、ちょいと悲しくなってしまう。

 

ではどんなものが公開された年だったのか、ざっと見ていきたい。まず1月、西ドイツの映画「Uボート」が公開された。本国では前年に公開されたものなので、イベントでは先月かけてしまった。クラウス・ドルディンガーの手によるサントラは実に印象的だ。2月には「ベストフレンズ」「スクープ 悪意の不在」が忘れられない。3月には国産アニメ「1000年女王」も懐かしいが、「象のいない動物園」というちょっと忘れられない一本もあった。また、チャールズ・ブロンソンのDeath Wishシリーズの2作目「ロサンゼルス」が、ジミー・ペイジによるサントラとともに公開となった。4月は「転校生」「オン・ザ・ロード」「化石の荒野」「刑事物語」「浮浪雲」と日本映画が頑張っていたが、洋画は「シャーキーズ・マシーン」程度だ。洋画不作の状況が鮮明だ。一方で5月は「探偵マイク・ハマー 俺が掟だ!」「狼男アメリカン」などに加え、忘れられない一本「タップス」が公開になっている。バンカーヒル陸軍幼年学校を舞台にした籠城ストーリーはもの凄いインパクトだった。自分の場合、この映画を観たことがきっかけで、この時期から結構多くの映画を映画館で観ることになった。

 

6月も洋画が寂しいからか、邦画が目立つ。「鬼龍院花子の生涯」「ひめゆりの塔」「道頓堀川」といったあたりがこの時期公開だ。一方7月からは洋画の名作が名を連ねる。まず「ロッキー3」「ブレードランナー」「ポルターガイスト」「キャット・ピープル」「コナン・ザ・グレート」あたりが同時期の公開だ。さらにはクリント・イーストウッド主演の「ファイヤーフォックス」もこの時期だ。東西冷戦を背景に新型ミグを持ち出そうとするアメリカのスパイを演じたクリント・イーストウッドが忘れられない。8月は「ワン・フロム・ザ・ハート」と「炎のランナー」という有名サントラ盤の映画が公開になる。トム・ウェイツとヴァンゲリスの2枚は、イベントでも紹介しないわけにはいかないだろう。

 

面白いのは、「呪われた森」がこの年の9月に公開されていることだ。「ポルターガイスト」や「この子の七つのお祝いに」など、もっともっと怖い映画が直近で公開されており、ちいとも怖くない。クラシカルな佇まいがもっと昔の映画だったのではと勘違いさせることになる。そういう意味では、1980年代前半というのは、映画の世界でも新旧交代が急速に起こった時期なのだろう。これ以降の妙にカネがかかった大作ばかりになっていった後では考えられないほど地味な映画が劇場で公開されていたのだから、今更に驚かされる。インターネットもなかった時代には、映画に関する情報は雑誌「ぴあ」が頼りだったわけで、映画館に行って観て後悔したものも数限りない。この時期、結構な数観ているが、思い出したくない思い出も多いということでもある。

 

この秋には邦画では「誘拐報道」「蒲田行進曲」「野獣刑事」「海峡」などといった名画や個性的なものが続々公開となる。また年の瀬の「汚れた英雄」と「伊賀忍法帖」の2本立てはいずれも忘れられない。「汚れた英雄」のサントラからはロズマリー・バトラーが歌い人気があった「ライディン・ハイ」も忘れられない。洋画では「エンティティー 霊体」という怪作も妙に印象に残っているが、やはり大ヒットした「E.T.」の年であることは忘れてはいけない。マイケル・ジャクソンが語るストーリー・テリング・レコードなどというものもあった。他にもシルベスター・スタローン「ランボー」もあったし、「遊星からの物体X」もカルトな人気作だ。また中国映画「阿Q正伝」と「少林寺」もこの時期公開だし、内容的にはしょーもないものだが、サントラ盤だけはやたらと人気だった「初体験!リッジモント・ハイ」も忘れられない。

 

結局イベントで紹介するにしても、大名作「E.T.」の曲は誰も憶えていないわけで、「初体験!リッジモント・ハイ」のサントラからジャクソン・ブラウンのヒット曲をかけようかなどと思案している。こういった場合、すべてを説明することもできないが、ある程度背景も説明できないと納得してもらえないだろう。いやはや映画関連だけでも悩ましいことになってきた。「アイ・オブ・ザ・タイガー」や「チャリオッツ・オブ・ファイヤー」は完全当確だし、さてさて、困ったことになってしまった。

 


   

         
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