0178 検証作業は止められない(2018.09.02.

「土曜の夜は僕の生きがい」とは、エルトン・ジョンの大名盤「黄昏のレンガ路 Goodbye Yellow Brick Road」からシングルカットされたハードロック・チューン「Saturday Night’s Alright For Fighting」の邦題である。実に上手い訳だと思う。直訳ではないので意味は違っているが、雰囲気は実に上手く表現できていると思うし、曲調にマッチしている。実によくできた邦題だと思う。60年代70年代の洋楽曲は、「止めとけばいいのに」と思いたくなる邦題が多い。80年代になると、原題をカタカナ表記にしたものが主流になって、邦題の面白さという楽しみ方は薄れるが、無難は無難である。文法的に勘違いして恥ずかしい誤訳をしているものも散見された60年代70年代は、やはりシングル盤のスリーヴを眺めていても楽しい。

 

さて、最近は土曜の夜に開催しているトークイベントが盛況で、「土曜の夜は僕の生きがい」的に楽しんでいらっしゃるお客さんが多く、主催者冥利に尽きる。一方で「平日の夜に70年代を再度やってもらえないか」というご要望も根強くあって、先月から試験的に近いが、水曜の夜に1969年から再度実施している。人数は土曜日に比べると非常に少ないので、やり甲斐がないかと問われるとそうでもない。やはり自分の好きな時期の音楽をまとめて聴けるわけだし、時代背景を整理して解説しながらやるので、自分の記憶の整理にもなる。「10歳の記憶を語ってどうする」という向きもあるようだが、参加者の皆さんが勝手に各人の記憶を掘り起こし、整理しているだけなのであって、おそらく皆さん、自分の記憶などどうでもいいのだ。

 

先日も1970年の回を実施したが、ニュース映像では大阪万博、70年安保、高度経済成長などが中心、まだモノクロの映像がかえって新鮮だ。「黒ネコのタンゴ」や「老人と子供のポルカ」などの映像でいかに遠い昔になってしまったのかを実感し、ベッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」の爽やかなコーラスが、何故あれほど大ヒットしたのか少々不思議に思いながらも、非常に懐かしい思いをした。また、藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」を聴き、どうしてここまで暗い歌が流行ったのかと思いを巡らせたのもなかなか面白い時間だった。そして、ジェリー・ウォレス「男の世界」は、マンダムのCMで嫌という程刷り込まれた曲であり、繰り返し繰り返し聞かされるCM曲の威力というものを思い知らされた。まさにこれぞ1970年の音という気もする。

 

音楽史でいけば、ビートルズが解散した年であり、「レット・イット・ビー」がヒットした年、ジミヘンとジャニスが死んだ年ということで済むのだろうが、やはり「ドリフのズンドコ節」やソルティー・シュガーの「走れコウタロー」の記憶の方が、よりリアルでもあり、当時の生活に結びついた生の記憶のようだ。個人的には父親が国鉄職員だったので板橋区稲荷台にあった国鉄アパートに住んでいた時代であり、十条駅前のレコード屋さんでなけなしの小遣いを叩いてレコードを買うよりも前の時期、モノクロ・テレビが唯一の情報源だった時代である。東京の小学校の水が合わず、鬱々とした日々を送っていた時期であり、決して思い出したくもない記憶ばかりの時期ではあるが、反面それだけ真剣に音楽に救いを求めていた時期なのかもしれない。自分の記憶があまりに鮮明で、少々気持ち悪いほどの時期なのだ。

 

この頃のレコードは、当然ながらすべて後々買い揃えたものばかりである。従って買ってきて集中的に聴いた時期が必ずしもヒットした時期とは符合せず、アウトプットする前に時期的な記憶を補正する必要もある。ただし、この時期はまだ100%後追いなので、準備段階で十分整理することができる。意外にもクレイジーキャッツやドリフターズの映画やヒット曲が、記憶の補正には役立ったりもする。やはり今と違って、映画が全ての娯楽の中で占める割合が大きく、単純にランキングなどからも見えてこない部分があるのだ。やたらとヤクザ映画がヒットする中で、渥美マリ主演の軟体動物シリーズなどが大ヒットしていたり、内藤洋子が結婚と同時に完全引退してあまりに突然姿を消したのもこの年だったりする。ストーリーが完全に理解できていたか甚だ疑問ではあるが、随分多く観ていることに驚きもする。親に感謝すべきなのだろうか。

 

数年後には、お茶の水の坂を上がったり下ったりする日々がやってくることなどまだ知らず、親が連れていってくれたレコード屋で、そこにたまたまあるものを買って満足できた時代はホンの短い間のはずだ。それでも、この時期の音楽が好きだったり、懐かしかったりもする。優れた音質などというものを意識するのはもっともっと後のことだ。サイモンとガーファンクルのレコードの音が妙に悪かったことは正しい記憶として検証されたが、ジェームス・テイラーの「ファイヤー・アンド・レイン」が驚くほどいい音で鳴ることは、新発見のような驚きでもあった。そういえば、彼の声はいつでも張りがあり、艶のある低音がAMラジオのチープな音からも聞き取れていた…ような記憶が蘇ってきた。これだから、検証作業は止められないのである。

 


   

         
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