0181 ネタが多すぎる1985年(2018.09.23.

すっかりGINGER.TOKYOの名物になりつつあるトークイベントだが、今週は中2日で1971年と1985年を開催するということになってしまった。無理を承知でこのスケジュールにしたのは、1985年は定番曲が多いからという思いがあったが、やはり無理があった。定番曲を書きだしただけで50曲以上あり絞れないという、いつもの悩ましい状況に陥ってしまったのだ。素材はすべて揃っているが、やはり映像で音楽を聴くということに特化した時代、クリップを観ながらでないと語れない部分もあり、レコードに針をおろす回数がこれまでで最も少なかったかもしれない。音的に満足できるものはほとんどないのだが、こればかりはしかたない。「ウィ・アー・ザ・ワールド」など、映像と音がシンクロしていない状況で聴いても気持ちが悪いだけだ。

 

参加していただけたお客様の満足度はこれまで以上に高かったようだが、これは一部の方のみか?やはり33年前がテーマだけに、懐かしいのはどの素材も同じだが、思い入れの強弱は人それぞれ、聴きたいジャンルも人それぞれ。時代の空気感としてはHR/HMブームに加え、MTV向けのインパクトが強い映像を持ったコンパクトな曲ばかりだ。ワム!にマドンナにフィル・コリンズ、ともあれこの御三方で年間TOP100のうち14曲を占めてしまうのだから、時代の色はハッキリしている。ゲート・リバーブのかかった生音ではあり得ないドラムス、しかも強調し過ぎで長時間聴くと疲れるものが多くなっている。シンプルかつ強烈なデジタル音が溢れるなか、ブライアン・アダムスやブルース・スプリングスティーンのギター・ロックが嬉しくもあり、チャカ・カーンの時代を先取りした感が強い秀逸なダンス・ミュージックが意外なほど色褪せていないことに驚かされもする。

 

イベント前には落選曲をかけるのが恒例だが、今回は名作だらけのラインナップとなる映画やテレビ番組のトレーラーを10本ほど流した。音楽サイドから見ると「バック・トゥ・ザ・フューチャー」だけが売れたような気もしてしまうが、「セント・エルモス・ファイヤー」もあれば、「マイアミ・ヴァイス」もある。いずれも素晴らしいサントラ盤だ。「ビバリーヒルズ・コップ」も「ランボー/怒りの脱出」も「ネバーエンディング・ストーリー」も「アマデウス」もこの年に公開されたものだ。そして最もインパクトが強いのは「ターミネーター」の「I’ll be back」か。個人的にはマット・ディロンがらみの「フラミンゴ・キッド」や「ターゲット」といったあたりが最も好みだが、「バーディ」もあれば「コードネームはファルコン」もある「パリ、テキサス」もある。…やはり時間がいくらあっても足りない年なのだ。

 

またパンキッシュな音楽を急速に衰退させた一因に、超おバカなトイ・ドールズの「ネリー・ザ・エレファント」があるのではという個人的な見解もご紹介した。実際に自分の周辺のミュージシャンが、メッセージ性皆無のこの曲を聴いて、思い切りやる気を無くしてしまったことが思い出され、ニヤニヤ笑いが止まらず困った。歌詞がよく分からないまま洋楽を聴いている日本人だからこそということでもあろうが、突き抜けているおバカは楽しいし大好きだ。

 

この年はザ・ファームも売れたので、70年代的な音のギター・ロックもそれなりに多く聞かれたことも事実だ。黄金の第2期メンバーでまさかの復活を遂げたディープ・パープルがそれなりに売れたことも意外だったし、その後のHR/HMブームに影響を与えているかと考えるとやはり面白い。ヴァン・ヘイレンを去るデイヴ・リー・ロスが、コミカルなヴィデオとともに「カリフォルニア・ガールズ」などをヒットさせたことも、明るかった時代の空気感を蘇らせる。

 

その一方で、シャーデー「スムース・オペレーター」のようなジャジー・チューンが売れたことも嬉しかった。ブランフォード・マルサリスが加担したスティングの楽曲もクオリティが高かったし、イーグルスの残党もいい仕事をした年だ。洋楽のクオリティが高い時代、邦楽も頑張っていたが相対的に印象は薄い。大沢誉志幸「そして僕は途方に暮れる」、TOM CAT「ふられ気分でRock N’ Roll」、レベッカ「フレンズ」など印象的なものもあったが、映像などはまだろくなものがない。個人的にはサザンオールスターズ「KAMAKURA」ばかり聴いていた時代だが、時間の制約が恨めしいと言いつつ割愛した。

 

前年のマイケル・ジャクソン「スリラー」の映像はやはり影響力大だった。この年は実に多様な映像クリエーターが活躍したことも印象的だ。ダイアー・ストレイツ「マネー・フォー・ナッシング」やA-HA「テイク・オン・ミー」のアニメーションは忘れられないし、ミュージック・クリップという45分の尺にストーリー展開を詰め込んだ楽しい映像が噴出してきた時代だ。モトリー・クルー「スモーキン・イン・ザ・ボーイズ・ルーム」は最高だった。ブラウンズヴィル・ステーションのオリジナルも映像で紹介しながら、あえて過剰かと思わなくもないほどフィーチャーしてみたが、これには理由がある。1970年代を知る自分のような世代にとっては、1980年代中盤以降、滅多やたらとカヴァー曲が多くなった気がすることも事実なのだ。デイヴ・リー・ロスのように全曲カヴァーというコンセプトを好例として、元ネタを探るという新たな楽しみを与えてくれたことも事実なのだ。

 

ニュース映像に関しては、今回JAL123便の御巣鷹山墜落事故やつくばの科学万博など極限られたものしかご紹介しなかった。CMもそれなりに時代を感じさせるものもないわけではないが、電話ボックスの公衆電話が映っているNTT誕生のものなどホンの一部だけご紹介した。ネタが多すぎたということもあるが、やはり洋楽が一般化しミュージック・ヴィデオに漬かって過ごした時代であり、ミュージック・クリップそのものが最も時代を反映していると判断したからである。8687年もどんどんその傾向は強くなっていく。さてさて、このイベント、今後はどうしたものか。

 

 


   

         
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