0183 苦渋の決断(2018.10.06.

トークイベント「Music & Talk 1972」が近づいてきた。毎度少人数の参加者ゆえにワークショップ的な雰囲気だが、かえってそのおかげで深掘りできるような側面もあり、主催者としてはやり甲斐もある。お店の売上的には赤字状態だが、こればかりは致し方ない。PRと思うしかあるまい。土曜日の夜にやっているイベントは満席状態が続き、次回「1986年」の回は、とうとう当日のお昼にマチネの回を実施するまでになってしまった。 3時間超のトークイベントのダブルヘッダーという、体力勝負の様相を呈している。80年代のイベントはヴィデオも駆使するわけで操作的にはラクなのだが、できるだけ座ってやるようにしようなどと考えている。果たしてこの差異はいったいどこに起因するのか。単に70年代が人気薄で80年代が楽しいからというだけなのだろうか?土曜日の夜が皆さんご都合よろしくて、平日の夜はお忙しいということなのか?どうにも解せない。

 

さて、相変わらずのプリンタ不調に見舞われながらも、1972年の準備を思い切り楽しんでいる。如何せん、レッド・ツェッペリンの4枚目とディープ・パープル「マシン・ヘッド」という1970年代を代弁するかのようなブリティッシュ・ロックの大名盤がヒットした年だ。ローリング・ストーンズは「メイン・ストリートのならず者」、イエスは「こわれもの」、デヴィッド・ボウイは「ジギー・スターダスト」、モット・ザ・フープルは「すべての若き野郎ども」、T.REXは「ザ・スライダー」という各バンドの代表的なアルバムがリリースもしくはヒットした年である。この年ばかりは英国勢優勢と言わざるを得ないだろう。このほかにも、アージェント「ホールド・ユア・ヘッド・アップ」やリンゴ・スター「バック・オフ・ブーガルー」、バッドフィンガー「デイ・アフター・デイ」などといった子供にもウケのいいポップなヒット曲もあった。バック・グラウンドなど語りたいことも山ほどある年で、思い入れの強い年でもある。

 

ではアメリカはダメだったのかというとそうでもない。ただロックというよりもポップスの名曲群といった趣きだ。シカゴは紛いもないロック・バンドだが、この年の大ヒットはミドルテンポの「サタデイ・イン・ザ・パーク」であり、それまでのハードな演奏とは違う。スリー・ドッグ・ナイト「ブラック・アンド・ホワイト」、ニール・ヤング「孤独の旅路 Heart Of Gold」、ドン・マクリーン「アメリカン・パイ」、アメリカ「名前のない馬」「アイ・ニード・ユー」、ニルソン「ウィズアウト・ユー」、リック・ネルソン「ガーデン・パーティ」といったポップスの名曲群は、自分を洋楽好きにした直接の要因でもあり、当然ながら思い入れもある。

 

他にもこの年は、アルバート・ハモンド「カリフォルニアの青い空」やギルバート・オサリバン「アローン・アゲイン」、トッド・ラングレン「アイ・ソー・ザ・ライト」「ハロー・イッツ・ミー」、エルトン・ジョン「ロケット・マン」などといった、十分に一人の小僧の人生を変えるだけのパワーを持った曲が湧き出るようにヒットしていた時代なのだ。あわせてソウル・ミュージックもやはり名曲が多い。年間シングル・チャートの1位はロバータ・フラック「愛は面影の中に The First Time Ever I Saw Your Face」、ソウル・トレインでやたらと聴いたオー・ジェイズ「裏切り者のテーマ Back Stabbers」、そしてライヴの大名盤ダニー・ハザウェイ「LIVE」までもがある。当時小学校6年生だった自分に最も衝撃を与えたのはマイケル・ジャクソン「ベンのテーマ」だったかも知れないが、やはり英米問わず名曲の宝庫である。

 

では日本人はどうかというと、自分にとってこの年最も忘れられない曲は日産スカイラインのCM曲、BUZZ「ケンとメリー」だが、印象的なのは吉田拓郎関連諸作といったところだ。モップス「たどりついたらいつも雨ふり」、猫「雪」「地下鉄に乗って」といった拓郎作品に加え、「旅の宿」と「結婚しようよ」の2曲が本人によってヒットしたという、もう大ブームとでも言うべき活躍を見せている。その一方でこの後ミュージック・シーンを席捲する井上陽水がデビューし、「傘がない」の暗さが新鮮だったし、デビュー盤でいきなりキャロル・キングのサポートを得た五輪真弓も凄いとしか言いようがない。彼女の1、2枚目は、キャロル・キングがらみのアルバムとして、コレクター泣かせの重要タイトルなのである。如何せん状態のいいアルバムはほとんど見かけない。

 

映画は「ゴッドファーザー」「キャバレー」「ハロルドとモード」「ラ・マンチャの男」「フレンチ・コネクション」「時計じかけのオレンジ」など、やはり忘れられない名作も多いが、今回のイベントでは時間を割けないという気もしている。かけたい曲が多すぎる上に、年表だって時代の節目感が強く、鉄道100年やら、あさま山荘事件やら、沖縄返還やら、札幌&ミュンヘン・オリンピックやら、語らなければいけない項目が多々あるのである。ちなみにイーグルスも荒井由実もデビューした年ではあるが、別の機会に詳しく語ることになるだろうから、ここで時間を割く予定はない。そう、イベント準備は楽しい選曲作業ばかりでなく、苦渋の決断の繰り返しでもあるのだ。

 


   

         
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