0185 秋の夜長は(2018.10.20.

芸術の秋、音楽を楽しむイベントは大盛況であった。「Encore The 80s – 1986」は告知の翌日に満席となり、マチネの回を実施することになった。さすがに昼の回は6名様のご参加、のんびり楽しめたかもしれないが、盛り上がりには欠けていた。その一方で、満席状態の夜は盛り上がり過ぎてタイヘンなことになっていた。やはり思い入れの強い時代なのか、皆さん思い出をしゃべくりまくり、トークはあまり必要ないという空気になっていた。資料に目を通す余裕もなかったことだろう。主催者としては楽しんでいただければそれでいいのだが、やり方がこのままでいいのかという疑問は浮かんできた。ディスコ的な盛り上がりとでも言えばいいのか、秋の夜長を昔聴き馴染んだ音楽でしみじみ楽しもうと思っていた方には少々酷だったかもしれない。その匙加減は至難の業かもしれないが、主催者はやはりそこを目指さなければいけない。

 

またダブルヘッダーで実質7時間ほどしゃべくりまくる主催者は、自分の年齢と体力ということに配慮しなければいけないということを学ぶ機会にもなった。夜の回が終わるころには喉が熱を持ったようになってしまい、翌日まで辛かった。極力アナログレコードでお聴かせするイベントのはずが、PCをタップする行為にかなり置き換えてしまったので、背筋が痛くなるようなことはなかったが、アナログレコードのサウンドを期待していた方には本当に申し訳なかったと思う。今回はトリビア/小ネタは控えめにして、時代の空気感を蘇らせる出来事やテレビドラマなどのネタを多くしたので、懐かしさは相当のもの、1986年は既に32年も前なのだという実感は湧いたことだろう。

 

「男女7人夏物語」を題材にした際、ファッションや髪型に加え、出演者がみな若いことに目が行ってしまうが、主人公の2人が隅田川に架かる清洲橋を挟んで住んでいたことなどはローカルなネタとしては面白いし、ドラマの中で出演者がやたらと電話をかけることも、昨今とは大きな違いでやはり面白い。しかも固定電話なのだから一層だ。携帯電話やインターネットでライフスタイルが大きく変わったということは判っていても、具体的に目で見ると違いがはっきりする。職場の電話から個人的な用件で電話するのが当たり前のような時代というのは、いつ頃からいつ頃までなのだろう。小津安二郎監督の「東京物語」でも、職場に一つしかないような電話に連絡が入り、取り次いでもらうシーンがあるが、こういった光景は時代時代で変わってきたのだろう。反対にドラマなどで時代感覚を演出する際のネタとして使えるのではという気もする。

 

マイケル・ジャクソン「スリラー」の影響力がどれだけ大きかったか想像もつかないが、MTVの時代になって音楽の聴き方そのものが変化したということを意識させられたのも1986年頃だ。ミュージック・クリップはどれもクオリティが高まる上に多様化していったし、4分ほどのクリップにしっかりストーリーがあるものが増え、単に演奏が上手いというだけで売れる時代ではなくなったようだ。ボン・ジョヴィやヨーロッパなど、ルックスのいいバンドは日本から火がつくようなところもあって面白い。やっている側もその辺を意識した映像を繰り出してくるのだから、観ていて飽きないし、そういう時代だったなあと懐かしく感じるわけだ。イベント主催者もその辺を意識して、マイアミ・サウンド・マシン「コンガ」、トーキング・ヘッズ「ロード・トゥ・ノーホエア」、「ピーター・ガブリエル「スレッジハンマー」などといった曲をアタマに持ってくることになる。

 

ZZ TOPは独特のストーリー仕立てで演奏というよりは映像を楽しませてくれる。「イリミネーター」のころから続いているようなヴィデオで「スリーピング・バッグ」のクリップをつくり、しかも「つづく To Be Continued」で終わるのだから上手いことをやる。前作が売れているからこそできる技でもある。バグルスの「ラジオスターの悲劇」が現実のものとなっていたわけだが、ここらはルックスの良し悪しではなく、見せ方の勝負に持っていったわけで、一枚上手だったと言うべきか。最近では動画クリエーターという職業は一般的になったのだろうが、当時はそんな職業が存在すること自体想像もつかなかった。ミュージック・クリップは1960年代から存在するが、やはり劇的にクオリティが向上したのは80年代のMTV時代になってからということを思い知らされる。

 

映画のネタは多すぎて上っ面を舐めることしかできなかったが、一気にCGが映画の中に入り込んできて、迫力のある映像だらけとなっていた。アクション・シーンは派手になる一方だし、ストーリーも奇想天外なものが増え、映画の魅力が増した時代でもある。その一方でジャームッシュ・ブームもあってモノクロ映像にハマった人間がいたり、香港ノアールの妙なリアリティが面白くもある。それでも「トップガン」の迫力はけた違いだった。さて、イベントのせいで、もう一度観たい映画があれこれ出てきてしまった。秋の夜長は時間を上手く使わないと、いくらあっても足りないことになりそうだ。

 


   

         
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