0186 2018年版音楽の楽しみ方(2018.10.27.

音楽の楽しみ方が時代とともに変化するということは繰り返し書いてきた。もとは生演奏を楽しむという貴族の社交の場だったり、酒場でのサービスだったりしたのだろう。蝋管なり円盤なりのレコードが開発され、録音したメディアを再生して楽しむという行為が定着するまでには相当の時間を要しただろうが、それすら元はパーソナルなものではなく、ソーシャルでパブリック、つまり大勢で再生したものを共有するかたちで楽しんだものだった。一部の裕福な家庭を除いて、ホームオーディオで個人的に楽しめるようになったのは戦後の高度経済成長期の頃からではなかろうか。ホームオーディオが定着した後は、ウォークマンが音楽を町に連れ出し、一気にパーソナル化が進んだが、その後はメディアの変化が目まぐるしく、ミュージシャンのビジネスも大きく変容してしまったようだ。

 

映像でも同様で、元は映画館で無声映画+生演奏からスタートし、映画も一般化し、テレビが開発された直後は街頭テレビでやはり大勢が映像の情報をシェアした時期がある。それが家庭に入り込むのに時間はさほどかからないが、テレビがインターネットに切り替わっていくのには、やはり相当の時間を要した。インターネットが普及した後もテレビは生き続けているが、様々な場面で変容を迫られていることだろう。業界のことは詳しくないが、番組表に縛られずオン・デマンドで望むときに楽しめる環境は確かに有り難い。夜中にふとある曲が聴きたくなって、YouTubeで検索すると大抵のものは出てくる。現時点では画質・音質とも満足がいくというものではないが、こういった部分も日々進化しているし、この辺は古典SFよりも現実の方がはるかに進んでしまった一つの典型例だろう。

 

自分のように、カフェでお客様と音楽を楽しむ時間をシェアしている人間にとっては、実に有り難い時代ではある。ただし、権利関係には注意が必要だ。音楽を愛する者として、著作権法を侵害したくはない。JASRACの会費も支払っているし、映像作品を丸々視聴するようなことはしないようにしている。多くの人がスマホ片手にイヤフォンを装着して、音楽なりゲームなりをしながら移動するのが一般的になった昨今、音楽のパーソナル化も行きつくところまで行ったような気もするが、それでも一般的によくあるDJイベントや、ウチで開催しているような、昔の空気感を蘇らせて一緒に音楽を楽しむようなイベントが盛況だったりもするので、まだまだ音楽をシェアすることに楽しみを見出す人も多いようだ。やはり人間は社会的な存在であり、至極パーソナルな音楽を楽しむにしても、共感できることが面白かったりする生き物なのではなかろうか。

 

自分の場合、世代的に音楽が娯楽の中心にある時代に育ってきているので、ある意味幸せだったと思う。たとえその歌詞が「王様を殺せ~」と叫んでいる曲でも、随分平和な楽しみ方をしてきたものだ。子どものころからゲームが娯楽の中心にあって、常に戦っているような育ち方をした人間とは大きな差となって性格に現れるのではなかろうか。勿論これは、平和ボケしている日本という国の中での話だが、そう考えると、音楽を楽しむ余裕などない戦闘地域で育っている子どもたちは気の毒だ。平和な環境で対戦型のゲームをやるということが、ストレス発散や捌け口になっているのであればまだいいのだが、それで好戦的な人間になってしまうのであれば、一定の基準なり規制なりも必要だろう。勿論そんなことを考える自分は、一切ゲームをやらない人間である。

 

個人的には相変わらずアナログ・レコードが好きで、円盤を回して音楽を楽しむという行為が生活の中心にある。イベントを開催したりして楽しみ方は多様化しているが、根本部分は何も変わらない。イベントでかける曲の映像もコレクションしてはいるが、これはあくまでも補足的なもので、本質的にはアナログ・レコードのサウンドを楽しみたいと考えている。来月(201811月)には1973年、1987年、1974年と3本のイベントが予定されており、概ね準備も最終段階にきてはいるが、選曲に関しては直前まで悩み続けることになる。年表を眺めて気になる事件の情報をウェブで調べてみたり、その年に公開された映画の一覧を作って、好きな映画のトレーラーを見直してみたりといった時間はなかなか楽しいものである。

 

それに加えて、最近は1970年代の音源に関しても、YouTubeでほとんどのものの動画を観ることができる。公式のものは画質・音質もよかったりする。ホームオーディオ的に店のスピーカーから大音量で鳴らしてみると、どうしても低音がブカブカで満足できるものは少ないのだが、かなりよくなってきた。1980年代後半にもなると、映像で音楽を楽しむというスタイルが定着し、格段にクオリティも向上するが、1970年代前半のミュージック・クリップが意外なほどのクオリティで作られていたことは最近知ったことである。ブリティッシュ・ロックを中心に驚くほど高画質・高音質のものが視聴でき、しかもほとんどが演奏シーンの映像であることが有り難いのである。作り手のセンスも進化したということか。それも含めて時代感覚だったりもするので疎かにはできないが、いつの時代でも音楽を楽しむということは素晴らしく楽しいものなのである。

 


   

         
 Links : GINGER.TOKYO  saramawashi.com  Facebook  
 Mail to :  takayama@saramawashi.com     
 Sorry, it's Japanese Sight & All Rights Reserved.