0187 温故知新と統計資料(2018.11.04.

イベントの準備などで古いCM映像を観る機会が多く、非常に懐かしい思いをしている。自分がテレビを時々でも観ていたのは1980年代までで、1990年代以降は観たことがないに等しい。最近でこそ朝のNHKを時計代わりにつけているが、それも以前はJ-WAVEだった。テレビを語れる人間ではないことは事前に申しあげておく。それでも昔観ていたテレビで、しっかり記憶しているものがある。それがCMだ。繰り返し流れるCMは、ヘタをすると音楽よりも深く記憶されており、懐かしさも強かったりする。大瀧詠一を強烈に意識させた「三ツ矢サイダー」のCMは、1973年という時代に憧憬を抱かせるほどのインパクトと記憶の中への刷り込みがあったが、時期的に音楽が好きになるキッカケの一つにもなったもので、自分にとっては特別なものでもある、といった具合だ。

 

それでも自分の中では、サントリー、コカ・コーラ、JR東海がベスト3となる。JRが発足したのは198741日、当然ながら刷り込まれるように観たものではない。ユーミンの歌声があまりにも映像とマッチしていたシンデレラ・エクスプレスや、「そうだ、京都、行こう」というミニマルな「マイ・フェイヴァリット・シングス」が印象的なCMが好きというだけのことである。JR東海でいえば、山下達郎の「クリスマス・イヴ」が使われたCMも忘れられない。1989年頃のバブル絶頂期の空気感が映像からもうかがい知れる。コカ・コーラのCMは、バブル絶頂期の笑顔がはじけている映像が爽やか過ぎて呆れるほどだ。誰もが笑顔であるというだけで違和感を覚えてしまうのは、その後の失われた1020年があまりに楽しくなくて、人々から笑顔を奪ってしまったということなのだろう。認識を新たにさせられる。

 

サントリー・ウィスキーのCMは名作と言われるものが多いが、例えば80年代でいくと、井上陽水が出ていたものは妙に忘れられないし、マーク・ゴールデンバーグの曲が印象的な「ガウディ」や「ランボー」のものなどはトラウマ的によく記憶している。家族愛などのテーマを短編映画のように凝縮してみせるサントリーのCMが好きな方は多いことだろうが、自分の場合はどうもそこには至らない。泣けるCMも悪くはないが、時代の空気感を感じさせる懐かしいものが好みなのである。この部分は音楽からの視点なので、一般的に高く評価されるものではないかもしれない。他にも松田聖子の歌声とペンギンのアニメが懐かしいペンギンズ・バーや、かなり長いこと続いていたトミー・リー・ジョーンズが宇宙人を演じている缶コーヒーBOSSCMも忘れられない。明らかにただ者ではないインパクトを持っていたし、いろいろ考えさせたりもする。

 

こういったCMの映像は、概ねYouTubeで視聴することができる。本当に有り難いもので、検索すればある程度のものは出てくるし、紐づけて出てくるNEXT候補の中には、完全に忘れ去っていたものも含まれており、かなり慎重にチェックするようにしている。公式にアップロードされたものではないのかも知れないが、本当に貴重な映像も多く、感謝しないわけにはいかない。自分のようにイベントで活用させていただくネタとして重要な意味をもつ人間は稀かもしれないが、誰もが観れば懐かしいと思うだろうし、タイムスリップしてしまうこと間違いなしだ。ちなみに時間に余裕がある時にチェックするようにしないと、次から次へと観たいものが出てきてしまい、エンドレスになりかねない。なかなか恐ろしい吸引力のある世界がそこには存在している。

 

自分は「温故知新」という言葉が大好きなので、新しいものを見ても、ついついその経歴的なところから入ってしまう。突然変異的に生まれる新しいものも世の中にはあるのかもしれないが、圧倒的多数は過去の積み上げで現在があり、将来に繋がっていくものだ。音楽の世界など実に分かり易いもので、自分が子どもの頃に憧れた少し上の世代のミュージシャンは、寄ればすぐにロカビリーやブルースのジャムみたいなことをする。ルーツがそこにあるのは理解していても、「好きだなあ」などと呆れ気味に耳を傾けることになる。それでも、例えばジミー・ペイジが好きだというリンク・レイの音源を聴いて、なるほどレッド・ツェッペリンのルーツとまでは言わないまでも、こういうものを聴いて育ったからあのフレーズが出てくるのかと思い至った瞬間の楽しさといったらなかった。

 

音楽に限らず、諸々同じことが言える。デザインの世界然り、テクノロジーの世界も然り、温故知新の視座は大事だ。定点観測的に過去を振り返るからには、多くの統計資料にも目を通すことになる。インターネット上には驚くほど多くの統計資料がアップロードされており、無料で公開されている。これを使わない手はないと収集している自分のPCは、整理を怠るととんでもないことになってしまう。それでも、例えば間近に迫ったイベント「Music & Talk “The 1973”」では、出生数の統計資料がビルボードの年間Hot100などと共に綴られている。時代を読み解くキーワードとして「コインロッカー・ベイビーズ」がある1973年という時代を語る際、人口統計は絶対に必要になるのである。

 


   

         
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