0199 灰色の朝(2019.01.27.

昨年末に京都で7インチ・シングルを数枚入手したことで、またまた7インチ熱が出てきてしまった。…というのは建前で、今月はお子さんがインフルに罹ったり、自身が怪我をしたりという理由でスタッフのお休みが続いており、妙に忙しくしていることもあり、昔ながらの「忙しいときほど遊ぶ」を実践しているための微熱である。忙しいときこそ目先を変えて普段できていない作業をやり、疲れているときに無理をしてでも好きなことをしてストレスを発散している。経験則とでもいうべきもので、こうやってシンドイ日々をこの歳まで乗り切ってきたのである。自分の限界は自分がよく知っているし、疲れたからと言って早く寝ていては、新しい展開は望めない。睡眠時間も最低3時間は確保しているが、5時間以上続けて眠ることはしばらくやっていない。残念ながら「ボヘミアン・ラプソディ」等の評判になっている映画を観にいくことは叶わないが、ここまで徹底して好きなことをやっていれば、シンドイ日々でもストレスは溜まらない。

 

最近はどういった情報源からたどり着くのか、海外からのお客様が「ヴァイナルを探しているんだけど」と訪ねてくることが多くなった。やはりウェブの情報なのだろうか。売り物の7インチをざっと見て帰っていってしまうアジア系の方もいらっしゃるが、明らかにカフェ需要ではなく、レコードを見にきているお客様がいらっしゃるのだから驚いてしまう。通訳同伴でいらっしゃったイタリアの某ミュージシャンと、シンガポールの富豪らしき方はゆっくりお話しもできたが、フランスからやってきたご家族のお父さんとお兄ちゃんは、もう少しゆっくりできたらと名残惜しそうに帰っていかれた。相変わらずヨーロッパ系のお客様は多く、時々フランス語やドイツ語の会話が聞こえてくるお店という状況が定着しているのである。地元のビジネスマンのランチを賄うカフェでこれは面白い。

 

さて、お客様が少ない時間帯に、仕込みも終わってしまったら、まずは座ってPC作業だが、それでも時間に余裕があれば7インチ盤のストックに値札をつけて出すようにしている。買い付けに行く時間的余裕がなくても、未整理のストックはまだまだある。スペースがあればいくらでも出したいところだが、カフェ内のショップ・イン・ショップでは限界もある。スペースを有効活用する意味も加わって、価値のある盤が並んでいるようにしているつもりだ。邦楽アイドルは敬意を表して別箱にしてあるが、ここはお安めの価格設定となっている。その他は限られたアーティストに限定して揃えるようにしている。この点に関しては厳然とルール化しているので、あるアーティスト、ないアーティストは瞬時に回答できるのである。あるアーティストは、ヒット曲ではないマイナー曲でも揃えたいという意思はある。従って他店とは全く異なったラインナップとなっているのである。枚数は多くないかもしれないが、ご来店下さった方で好きなアーティストのものがあれば、大抵驚かれる。そして満足していただけることになる。

 

値付けはなかなか楽しい作業でもある。結局のところ「売りたくない度」で価格を決めるようにしているが、あれこれ考えながら作業するのは意外なほど没頭できるし、この没入感が堪らないのである。お客様が入ってこられた瞬間に「いらっしゃいませ~」という言葉が瞬時に出ないことに関しては、大変申し訳ないと思っているが、別世界から意識が戻ってくれば普通に接客できる。慣れているお客様は笑いながら「レコードの整理ですか」などと言いつつお席につかれるが、お初のお客様はある程度の驚きと戸惑いとともに着席されることになる。申し訳ないと思いつつ、時間は無駄にできない。自分にとって唯一無二のリソースは時間なのである。

 

先日、ブレッドの「灰色の朝 Dismal Day」のシングル盤がストック箱から2枚出てきた。1969年夏のオリジナル・リリース時にはチャートインすらしていないデビュー曲である。何故か理由はわからないが1972年に日本でのみヒットしている。ラジオのDJがかけて話題になったとかそういう理由でリバイバル・ヒットすることはたまにあるが、この曲は元々売れていない。1972年頃はヒット曲を連発していた時期なので、他のヒット曲に引っ張られて売れたというあたりか。手元にある2枚はスリーブ・デザインが異なっている。一枚が状態はあまりよくない400円定価のオリジナル盤、「見本盤」の文字が見える。もう一枚は500円定価だが状態は極上、我ながら信じられないほどの状態を保っている。さて、どう値付けしたものか。

 

70年代前半に大人気だったブレッドは早すぎたAORという印象のソフト・ロック代表バンドである。3人ともがほとんどの楽器を扱えるスタジオ・ミュージシャンという出自は後々知ったことだが、無上の美しいコーラスとデヴィッド・ゲイツの手による美メロがアイデンティティと言うべきだろう。シングル志向のバンドだったが、意外なほど7インチ盤市場には出回っていない。アルバムも同様で、あまり見かけることはない。例外がベスト盤で、自分も「The Best Of Bread」と「同 Vol.2」で済ませてしまったバンドである。イベントではあまり取り上げていないが、聴けば懐かしいし、「二人の架け橋」「イフ」「ギター・マン」「オーブレイ」「スイート・サレンダー」など好きだった曲も多い。当時を知っている耳には意外なほど時代の空気感を蘇らせるものもある。そんなわけで、最近はブレッドがかかっていることが多いGINGER.TOKYOなのである。

 

 


   

         
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