0202 ダンス・トゥナイト(2019.02.17.

今から9年前の20102月に書いた下町音楽夜話の第401曲では、ポール・マッカートニーのライヴ盤「アメーバ・ショー」について書いている。この時点でも大好きだった「ダンス・トゥナイト」という曲のことも織り交ぜているが、その時点で「ダンス・トゥナイト」のシングルを既に入手していたかどうか、記憶が定かではない。2007年の発売当時にリアルタイムで購入したものではないはずで、まずDVDケースとほぼ同じ大きさの豪華な装丁のCDのみを購入した記憶がある。その後、少し時間が経ってから中古盤店でピクチャー・ディスクを入手したものと思われる。ただ最近まで存在すら忘れていたものなのである。

 

ピクチャー・ディスクなどというものは、飾っておくべきもので針を落として聴くものではないと認識するが、この盤に関しては何度か聴いている。如何せんこの曲が収録されていたアルバム「メモリー・オールモスト・フル」はアナログ盤もリリースしてくれたが、存在に気が付いたときには2万円に近い価格となっており、購入を諦めたのである。恐らく相当プレス枚数も限られたものだろう。今のようなアナログ・ブームになる前だったので仕方がない。そんなわけで、「ダンス・トゥナイト」はアナログで聴けると言いつつ、ピクチャー・ディスクに針を落とすことは極力避けたいので、滅多に聴かない。

 

面白いのが、このピクチャー・ディスク盤のヴィジュアルである。購入した頃は何をデザインしたものか気にならなかったわけではないが、「ようわからん」で済ませていた。最近になってミュージック・クリップを観てしまったことで、やはり何をデザインしたものか知りたくなってしまったのだ。というのも、この映像を観る限り、そのデザインのヒントが全くないのである。郵便屋さんがポール・マッカートニーの家に荷物を配送にきたところ、中身のマンドリンと一緒にナタリー・ポートマン扮する幽霊が出てきて、他の幽霊たちと一緒に踊り出し、郵便屋さんは逃げ帰るというものだが、そこにはこのピクチャー・ディスクのデザインの元になるような情報は何もないのだ。気になって何度も観たが、どこにもない。どうしても気になるので、つれあいやら、カフェの常連さんやら、いろいろな人間に何に見えるかと訊ね回ったが、やはり皆さん一様に分からないという回答だ。建物や町明かりのように見えるという意見は多いが、あまりにデフォルメされていて、そう思えるような思えないような、何とも曖昧な印象しか持てない。

 

そもそもポール・マッカートニーのシングルであるからには、ある程度の枚数は売れることを前提に作られると思うが、どうにもプロのデザインとは思えないようなこの絵柄が気になって仕方がない。ポール・マッカートニー本人が描いたものなのだろうか?この子どもが描いたような絵柄を採用したことだけでも「大丈夫か?」と考えたくもなるが、事の真相は謎のままである。とにかくこのデザインを採用した上に、ピクチャー・ディスクにしてしまったのだ。しかもシェイプド加工されているのだ。相当に手間と経費をかけて作られているわけで、何とも納得がいかない。そういえば昨年リリースされた新作の「エジプト・ステーション」は1988年にポール自身が描いた絵がジャケットに使われている。この絵と見比べてみると、同じ人間が描いたとは思えない。一体何なんだ。

 

そういえば、過去のポール・マッカートニー作品にも「マジか」と言いたくなるようなデザインのものがあった。「ラン・デヴィル・ラン」の7インチ・ボックスだ。随分手のこんだトランク型のケースに入れられたアルバム全曲分の7インチ盤が愛おしいものではあるのだが、トランクのデザインがあまりに稚拙な絵で唖然とした記憶が蘇ってきた。トランクの取っ手も大きすぎてケースからはみ出してしまうので、かなり大きめの段ボール箱に入れられていた。ケース自体も随分厚いもので、中にはスポンジのスペーサーが入れられている。正直言って呆れるほど酷いデザインだった。ただこちらは遊び心という意味で子どもが描いたかのようなデザインにしたのだろうと思うことは可能だ。…いや、そう思うしかない。

 

そもそも、やたらといろいろな様式でリリースしてくれるこの御仁を、金儲け主義と揶揄する人もいるが、その反面ファンにしてみれば随分楽しませてくれる人間でもある。気になってディスコグラフィーを打ち出してみたが、極々シンプルなリストでもA4サイズの紙で6枚ほどになってしまう猛烈な量なのである。冗談のようにシングルも多ければ関連作品も多いのだ。これをすべてコレクションしているとしたら、部屋一つでは足りないような気がする。マッタクもって、コレクター泣かせだとは思っていたが、どれだけファンに試練を与えるのやら。まあ、好きで集めるのだろうから同情もしないが、あまりにヒドいデザインのものを買わされた時には少々凹む。ちなみに最近はシングル曲のヴィデオ作りにご執心か、どれもショート・ムービーのようで面白い。こちらのクオリティはさすがと言いたくなるのだが、この茶目っ気たっぷりの爺さん、何とかしてくれ。自分が所有している彼のシングル盤コレクションは、まるでひっくり返したおもちゃ箱のようにも見えるではないか。こんなミュージシャン、他に例がない。

 


   

         
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