0204 基本のレッド・ツェッペリン(2019.03.04.

「で?結局何が一番好きなの?」…最も回答することが難しい質問である。カフェの会話の基本とも言う。そんなにズバ抜けて好きなものなんてない。アルバムで言えばキャロル・キング「タペストリー」かなあ?曲で言えばキャット・スティーヴンス「人生はさすらい Sitting」か、フェイセズ「シンディ・インシデンタリー」か、…時と場合によるなぁ。といった曖昧な回答になってしまう。これが、比較的元気で体力に余裕がある場合だと、「レッド・ツェッペリンかなぁ、ピンク・フロイドかなぁ…」ということもある。元気でないときは、「カウボーイ・ジャンキーズかなあ、フェアグラウンド・アトラクションかなぁ…」なんてことを口にすることもある。自分の場合は、本当に浅く広くというスタンスなので、時と場合によるのである。バンドをやっていたときでも、ロックばかり聴くわけではなく、自宅では全米Top40に夢中になっていた。

 

最近、カフェではお客様の好みが優先してしまうので、自分の好きなものばかりを聴いているわけではない。それでも気に入ったものは繰り返し聴いたりするので、結局は自分好みの音楽が流れていることにはなる。問題は閉店後に仕込みなどをやっているときのBGMだ。この一年、基本のレッド・ツェッペリンという方針がある。と言っても、オリジナル・アルバムを聴いているわけではない。ツェッペリンの面白さはライヴ音源だと確信しているので、諸々のライヴ盤を聴いているのである。BBC音源は昔から好きだったので、随分聴いている。「コミュニケーション・ブレイクダウン」のヴァリエーションも何となくではあるが聴き分けられる。「ハウ・メニー・モア・タイムス」はいつ聴いても体が動き出してしまう。申し訳ないが、「デイズド・アンド・コンフューズド」は大抵飛ばしてしまう。基本的に3分ポップが好きなので、長すぎて好きになれない。

 

そして、ここ数年、最も聴いているのが「祭典の日 Celebration Day」である。200712月にロンドンのO2アリーナで開催された奇跡の再結成ライヴである。ドラムスはジェイソン・ボーナムなので、コアなレッド・ツェッペリン・フリークには笑われるかもしれないが、いやいやどうして、なかなかのものである。昔はほとんどプレイしなかった「グッド・タイムス・バッド・タイムス」からスタートするところも嬉しい。しかもこの一曲を聴いただけでも、ジョン・ポール・ジョーンズの一人だけ進化してしまったようなベースが理解される。ドラムン・ベースを通過してきた音であり、アクティヴ回路を搭載した現代的なベースを弾いているので当然のことだろう。映像で観ればそのことがさらにはっきりするが、使う楽器の違いは個人の考え方だろうから、仕方がないとも思うし当然の帰結とも思う。

 

面白いのは、ジミー・ペイジが昔と同じギターを弾いていることで、レス・ポールやダブルネックSGなどで昔ながらの音を出している。この辺、妙なサービス精神を感じなくもない。マニアにとっては非常に嬉しい行動ではなかろうか。単に使い慣れている楽器を使ったと言ってしまえばそれまでだが、最近の妙にサステインの聴いたポール・リード・スミスやその手の軽いギターの音に違和感を覚える耳には、妙に嬉しいギター・サウンドなのである。またエリック・クラプトンのスローハンドと同様に、ジミー・ペイジのギターは、「こんなに柔らかいタッチであの音が出るのか?」という驚きがある。映像でこその驚きだが、「カシミール」の冒頭や「トランプルド・アンダーフット」の後半も面白い。

 

残念ながらロバート・プラントの声が衰えてしまったことは明白だが、個人的にはMCで面白いことを言っているので帳消しと感じている。「トランプルド・アンダーフット」を紹介するときにレッド・ツェッペリン版テラプレイン・ブルースだと言ったりして、ルーツ・マニアを喜ばせるような戯言に満ちている。自分は「レッド・ツェッペリンの曲では何が好きか?」という話題のときに、BBC音源で聴かれる「トラヴェリング・リバーサイド・ブルース」を挙げることが多い。自分がギター・ロックにのめり込んだ時期の定番曲であり、こんなギターが弾いてみたいというギター練習のモチベーションとなった曲なのである。1990年前後にブルースにズブズブにハマった時期があったが、その引き金になった曲でもある。今聴いてもあのスリリングなフレーズは特別な存在である。

 

結局のところ、料理の仕込みという単純な作業の最中には、レッド・ツェッペリンのライヴを聴きながらあれこれ考え事をしているわけで、これがまた楽しくもあり、モチベーション・アップにもなっているのである。「祭典の日」の映像はいろいろなことを思い起こさせる楽しさに満ちており、入口として最適なのである。気になって他のライヴ・テイクにあたってみたり、オリジナル・テイクを聴いてみたり、作業が中断することも多いが、こればかりは止められない。やはり基本のレッド・ツェッペリン、この50年近くで最も多く聴いてきたアーティストであり、いまだに聴き飽きないのである。

 

 


   

         
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