0205 いつわりの瞳(2019.03.09.

音楽好きが集まるカフェを経営していて何が楽しいかと言われると、当然のことながらお客さんとの会話だ。皆さんそれぞれに好きな音楽があり、特定のミュージシャンやジャンルについて、思い入れの程を語り聞かせてくれる。好きなものの話をしている人の目は輝いており、聞いている側も楽しい気分になるものだ。面白いことに、ブリティッシュ・ロックが好きな方は多いが、アメリカン・ロックの話ができる方は意外に少ない。できてもザ・バンドとボブ・ディラン限定という方が多かったりする。そしてイーグルスの話ができる方もたまにいらっしゃるが、深掘りできる方は少ない。自分の場合、ブリティッシュ・ロックが好きではあるが、基本的に全米Top40がベースの人間なので、アメリカン・ロックに関しては浅く広く捕捉している。結果的に「多くの方の好みに合わせて会話ができるカフェのオーナー」ということになっており、天職的に趣味が生かされることになる。

 

先般、かなり音楽全般に詳しいがとりわけイーグルスが好きというお客様がいらっしゃった。詳しくは書けないが、端的に言ってかなり重度のアル中である。「テレビ番組でGINGER.TOKYOを知った」とおっしゃっていたので、「昇太のレトロを探そう」だなということはあたりがつた。その番組内ではイーグルス結成以前にグレン・フライとJ.D.サウザーがコンビを組んでいた「ロング・ブランチ/ペニー・ホイッスル」の盤が紹介されており、当然のように話はそこに行った。「本当にあるのか、聴かせてもらえるのか?」といったあたりで、もう目つきが変わっており、尋常ではない雰囲気を漂わせていた。本人がこの文章を読むことはなかろうという前提であえて書くが、音楽で身を持ち崩したとでもいう有り様が見てとれる。その原因がこの辺にあるのかと勘繰りつつも、「そんなに面白い内容でもないですよ」と言いながら針を落とした。3曲ほど聴いたところで、何故か安心したかのように再びいろいろ話し始め、その後はろくに聴いていないようだった。CDも発売されている音源であり、昔のように「幻の一枚」的な要素は薄れてしまったが、その辺の話題にも興味はなさそうだった。

 

この方の面白いところは、ほとんどのイーグルス好きと違って、ランディ・マイズナーが好きだということだ。グレン・フライの話題にはほとんど反応せず、ランディ・マイズナーのソロ2作目「ワン・モア・ソング」あたりに相当入れ込んでいた。自分もこのアルバムが大好きで、タイトル・チューンの歌詞も憶えているほどだが、話題がその辺まできたところで大満足して帰っていかれた。ド平日の午後2時前後のことなので、スタッフを含め周囲は呆れ顔で見ていたが、音楽の好みが自分と一致していることもあり、何とも気になって仕方がなかった。一歩間違えば自分もああなっていたかもという思いとともに、程度の差と言うべきか、音楽で人生を変えられたことは同じだなと思い、悲しい気分になってしまった。

 

イーグルスに関しては、「ホテル・カリフォルニア」のLPを売ってくれという方が多いことも面白い。一体何枚売れたのだろうか。「ウチは7インチ盤専門店であり、LPは売らない」と言っているにもかかわらず、このアルバムは何枚も売れたのである。34枚売れたところで、自分もストックをつくったので安心してお譲りしているが、相変わらず人気である。「昔大好きだったけど手放してしまった」「ジャケットを飾っておきたくて」と皆さん同じことをおっしゃる。分かる気もする。

 

イーグルスも多くのブリティッシュ・ロックのアーティストと同様、アルバムで聴くアーティストだったのだろう。7インチ盤シングルは意外なほど入手困難である。「呪われた夜」と「ホテル・カリフォルニア」はやたらと中古盤市場に出回っているが、それ以外の曲の7インチ盤はほとんど見かけない。先般「いつわりの瞳 Lyin’ Eyes」のシングル盤を見つけて購入したが、いやはや雑なデザインのスリーヴに呆れてしまった。とてもヒットした曲のスリーヴとは思えない。それでもこのシングルはB面がランディ・マイズナーが歌う「トゥー・メニイ・ハンズ」であり、自分にとってはイーグルスの中でも最も好きな曲なので、「やっと手に入ったか」と安心したのも事実である。

 

日本におけるイーグルスの人気や評価は、アメリカでのそれとはまるで違う。日本では大人気のデビュー曲「テイク・イット・イージー」はビルボードで最高12位、Top10入りは逃している。セカンド・シングルは「魔女のささやき」、こちらは9位である。ここらのシングル盤こそ幻の一枚である。その後「ピースフル・イージー・フィーリング」「テキーラ・サンライズ」「アウトロー・マン」「過ぎた事」「ジェームス・ディーン」はTop10入りを逃し、「我が愛の至上 Best Of My Love」がいきなり1位になるのである。ここから1980年の「言い出せなくて I Can’t Tell You Why」までは大ヒット連発の絶頂期を迎えることになる。5曲がNo.1ヒットなのだから凄い。ちなみに前述の「いつわりの瞳」は最高2位まで上っているが、正直なところ「そんなに売れたっけ?」といった印象ではなかろうか?イーグルスが好きという方と話していて、この曲が話題に上ったことは一度もない。

 

さて件のランディ・マイズナー、大ヒット・アルバム「ホテル・カリフォルニア」をつくったところでバンドを脱退してしまう。バンドの音がハードになっていくことに抵抗があったということだが、ソロ作を聴くと確かにカントリー・ロック的な要素が強い。初期のイーグルスが好きな人は、バーニー・レドンが脱退して音が変わったと口を揃えるが、実はこのベーシストも初期イーグルスの音の要素であったことが窺い知れる。さてさて、その辺を深掘りしていくと確かに酒は進むが、身を持ち崩すほどのことでもない。件のお客様の身に何があったか知り様もないし知りたくもないが、自分はジョー・ウォルシュのハード・ロック・ギターも好きなので、何とも言い難い。思い出すのは当時のジョー・ウォルシュ、もの凄いアル中オヤジだったではないか。何とも危ない話だ。

 


   

         
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