0215 イベント、イベント、イベント(2019.05.19.

音楽イベントを企画することはなかなか楽しいのだが、採算などを考えると結構難しいことになる。満席のような状況で開催できれば、モチベーションも上がるし採算もとれるが、お客様が集まらないときはその正反対、自らの手で売上げを減らすことになってしまう。参加してくださる皆さんは毎度楽しかったと言ってくださるので励みにはなるが、それだけでは継続することは難しい。どの曲をかけるか検討することも実は結構悩ましく、何がウケるかという考えが強く出てくると楽しさは減っていってしまう。もともとメジャーなものより、FENでないとかからないようなマイナーな曲を好んで聴いていた奴なので、ヒット曲をかければよいという単純な考えは持ち合わせていない。

 

イベントの準備をする段では、年表を睨みながら当時の社会事象と照らし合わせ、自分の記憶と符合する部分を糸口に選曲とトークを組み立てていく。結果として、同時代を生きてこられた方々の、深い記憶を蘇らせることにもなるし、他では味わえないイベントの個性が醸成されることになる。そもそもDJイベントではない。音楽で楽しませるだけなら、少々音楽を聴き込んだ人間であれば誰でもできることになる。せっかく何千枚ものアナログ・レコードと、いい音で鳴るオーディオ環境があり、それに加えて50年近くも音楽を聴き続けてきたというあまり例がない好き者がおり、パソコンが普及し始めたときに練習だと言って音楽のデータベースを作っていたため、普通ではあり得ないほどの情報量を持ち合わせているのである。すべてを有効活用する内容にしなければ勿体ないではないか。

 

面白いもので、年刻みのイベントは70年代後半から80年代中盤までに人気が集中する。この辺の年代の曲をかけるイベントは毎度盛況となる。それ以外の時期のイベントは、恐れ入るほどに不安定で、下手をするとマンツーマンだったこともある。確かに楽しい時代だったかもしれないが、自分はやはり70年代が好きな人間なので、知識量もモチベーションも70年代圧勝である。今更に80年代のサブカル研究書を紐解いて勉強することにもなる。その後の歴史を知った上で聴くことにも意味はあるが、先のことなど知らないで聴いていた当時の感覚は最大限に尊重しているので、慎重にトークの内容を検討していたりもする。いやはや、なかなか苦労するのであるが、見方を変えれば、実に楽しい。実に面白い。

 

昨日は「It’s Only Music … But Vol.2」というイベントだった。これは年刻みのイベントが1989年まで行って中断しており、しばし様子見ということで、自分の好きな曲を聴き比べなどしながら語るものの2回目である。1回目は病気の子どもたちを励ます活動をしているミュージシャンを基軸にトークを展開し、バブルの頃にアンチ・テーゼ的に流行ったブルースを紹介しながら、流行したものを中心にかけるイベントからは漏れてしまうような音源をご紹介した。つまり、自分の中では思い切り内省的で後ろ向きの内容にしてみたのである。2回目は逆に未来志向を持った曲、つまり早すぎた曲を基軸にして、印象的なカヴァー曲との聴き比べなどを展開した。アポロ計画の末期、世間の目が宇宙に向いていた70年代の空気感でもあり、自分の得意とするあたりなのだ。

 

また、大学の講義みたいだとまで言われたこともあるイベントではあるので、そのご意見を逆手にとって、サブカル近現代史の要素を根底に持ちつつ、普段疑問に思っていることなども織り込んで、研究発表的な内容も加えてみようと密に考えていた。今回はその初回ということで、ここ数カ月、研究するかのように繰り返し聴いてきたシカゴ「長い夜25 or 6 to 4」のヴァージョン比較をやってみたのである。Wikipediaなどの記述は検証が甘く、全くあてにならない。研究発表には最適な曲なのである。

 

2枚目のアルバムから先行リリースされた(ロゴがまだ違っている)国際的なヴァージョンは、ギターがワウを使っていない。日本盤シングルは23秒ほど長く、強めのワウがかかっている。ヴォーカルも別のヴァースを歌っている箇所があり、バランスもヴォーカルとドラムスが前面に出ている。アルバムはもっともっと長く、ギターは弱めのワウの後に強めのワウが出てくる。テリー・キャスが、意外なほどカッティングもリードも上手いことが知れる。面白い。

 

ある程度のボリュームでこれらを並べて聴くと、3つとも別ものであることが判る。つまりよくあるような編集ものではなく、録り直しているのである。英国ではラジオでレコードの音源が流せなかった時代、ミュージシャンは器用に同じ曲を再現してみせる。今の時代では考えられないほどに再現性が高い「別テイク」であるということをお示ししたわけだ。シカゴ市の交通局からクレームがついて、バンド名を短縮したことや、曲名の面白さに気を逸らされてしまいがちだが、意外に面白い事実が隠されている曲なのである。結果として日本盤はレア音源ということになり、7インチ盤の価格を見直さなければいけないということにもなる。面白い。

 

昨日はその他にも、サイモン&ガーファンクル「アメリカ」比較、ジョニ・ミッチェル「ビッグ・イエロー・タクシー」比較、ジミ・ヘンドリックス「エンジェル」比較などなどカヴァー比べは盛り沢山だったわけで、終了後はいろいろご意見も頂戴しつつ、参加者の皆さんと歓談することができた。恒例のバタバタ準備はここに極まれりという有り様で、3時間睡眠すら削り取っているわけで、「そこまでしてやることか」と言われつつ、さらに内容を深めようとしている好き者のイベントである。当然好き者しか集まってこない現状ではあるが、他にはないものがここにあることは確かである。いやー、面白い。

 

 


   

         
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