0217 I.G.Y.」米原盤マト1 MASTERDISK盤(2019.06.02.

カフェの中の一隅を利用して、7インチ盤の専門店を運営している。買い取りをやるわけではないので、自分のコレクションを切り売りしているようなものだが、店として始める前後に一般的に人気がありそうな盤も仕入れ、ある程度の体裁を整えてみた。某知人から「アイドルものを蔑ろにしてはいけない」というアドバイスを頂戴し、本来はさほどしっかり聴いてきたわけではない邦楽も一定枚数置くことにした。80年代のスーパー・アイドル、松田聖子と中森明菜はもの凄い熱量を持ったファンがいることは以前から承知しており、7インチ盤のコレクションをお手伝いしたこともあったので、データベースもしっかり整備してある。そのあたりを中心に展開すれば意外にラクでもあり、楽しむこともできた。自分は年齢的に70年代がそのまま10代なので、やはり南沙織や山口百恵キャンディーズあたりがわかると言えばわかる世代である。この辺を集めるのに苦はないが、好きでもない歌手の昭和歌謡などなかなか集める気にもならなかったので、スルーすることにした。邦楽の場合、あるものはあるがないものは一枚もないという徹底した方針となった。

 

また、J-POPと総称するのも憚られる、洋楽に引けを取らない一群のアーティストのものは、もともと情報もあるし物も少しはあった。山下達郎、大瀧詠一、YMO、サザンオールスターズ、ユーミン、RCサクセッションなどは、聴いても楽しい。昨今この辺りの邦楽が海外で人気のようで、外国からわざわざウチのような半分趣味的なショップにまでご来店いただける事態となっている。こういったニッチな市場でまでインバウンドの影響が顕著というわけだ。海外や地方からお越しになるお客様はそれなりに熱心で、少しお話しをしてお相手することになるが、これまた楽しい。レコードを見にいらっしゃる皆さんがDJをやるというわけでもないが、懐かしさを求めている方もいれば、アナログに目新しさを求めている方も一定割合いらっしゃる。面白い時代になったものだ。

 

自分が定期的に開催しているトーク・イベントも、ある意味「レコ屋のプロモーション」も兼ねている。イベント中、かけている曲の関連レコードを回覧するのだが、時々ついている値札を見てひと騒ぎすることがある。あくまでも「売りたくない度」で価格が決められているような趣味的要素のはなしで済めばいいが、済まされない場合もたまにある。高額な盤になるとそれはそれで思い入れを語るネタにもなるので、最近はしっかり値札をつけるように努力しているが、以前は「非売品」も多かった。非売品という言葉自体があまり好きでもないので、最近は7,000円や10,000円といった高額の値札で「売らないよ」という意思表示をすることになる。最高額は100,000円まである。Amazonでそういった値段で売られているものの、新品未開封盤なのでそういう価格になる。その他にも30,000円というものがいくつかある。次のイベントの準備をしていて、1982年には30,000円盤があったことを思い出した。さて、どうしたものか。こういったものを見慣れていないお客様には刺激が強すぎるか?それとも背景を語る上では面白いネタにはなる。やはり持ち込むべきか…。

 

ものはドナルド・フェイゲン「I.G.Y.」の米原盤、「マト1 MASTERDISK」盤である。「マト1」などというものにさほど興味はないのだが、この盤に関しては少々話が違う。如何せん、世の中のミキシング・エンジニアの多くがセットアップのチェック用に使う音源として挙げていたり、オーディオファイルからビートルズ「サージェント・ペッパーズ~」やビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ」などと共に歴代名録音のベスト10に挙げられたりと、誰もが認める高音質録音の代表作である。しかも7インチ盤である。7インチ盤に関しては、そもそも45回転であることからも、概ねLP盤より満足のいく音で鳴る。この198210月にリリースされた、初めて完全にデジタル録音で収録されたアルバム「ナイトフライ」の冒頭を飾る名曲の鳴りは格別なのである。正直なところ、入手した段階でもゼロが一つ多かったが、これを見逃す手はないと瞬時に購入を決意したものである。

 

デジタル技術も、手軽さという方向性と高音質という方向性があったことは何度も書いていることだが、ノイズがないクリアなサウンドという意味で高音質への拘りも当然試行錯誤が繰り返されてきたわけである。その歴史の中で、だれもが認める高音質録音というのは、スティーリー・ダン解散後初のソロとして、あのドナルド・フェイゲンが拘り抜いた結果生まれたものである。「I.G.Y.」とは「International Geophysical Year」を意味し、195758年頃のちょっと懐かしいテイストも織り込まれた奇跡の一曲なのである。古きよき時代への憧れとともに、ロックから見たジャズへの憧れも感じられ、AOR/フュージョン・ブームの中、金字塔的に扱われる一曲である。その米原盤、「マト1 MASTERDISK」盤である。正直なところ、レア度も最高級であれば、オーディオ趣味的にも申し分ない一枚であり、値段の付けようもない代物なのである。さて、1982年のトーク・イベントで鳴らしてみますか。…前回は大事にしまい込んでおり、見つけられなかったという笑えないネタとともに、少々多めに時間を割いて語る価値はあるでしょ。

 


   

         
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