0218 寂しいおもい(2019.06.09.

マック・レベナック、すなわちドクター・ジョンが亡くなった。享年77歳。また一つ巨星が堕ちたわけだが、77歳となれば早すぎるということもない。突然の訃報でもあり、現役として活動していたが故に残念な気もするが、安らかに眠れとしか言いようがない。大好きなニュー・オリンズの偉大なミュージシャンであり、ほとんどのアルバムを入手して聴いてきたが、クセが強すぎて手放しで好きだと言えるミュージシャンではなかった。ヴードゥー教がどうのという話題も、どうにも興味が湧かない。正直言って、自分は彼の音楽が理解できていなかったのだろう。コロコロ転がるピアノは好きだったが、ヴォーカルが好きなタイプではなかったし、好きな曲はと問われても「アイコ・アイコ」か「ライト・プレイス、ロング・タイム」しか思い浮かばない。毎度ニュー・オリンズの話題になると繰り返し言ってきたことだが、自分にとってのニュー・オリンズはプロフェッサー・ロングヘアーであり、アラン・トゥーサンであり、最近ではジョン・クリアリーなのである。

 

それにしても、訃報が続く気がしてならない。こちらが既に48年も音楽を聴き続けてきたこともあって、多大なる熱量をもって音楽を聴いていた時代のミュージシャンは皆高齢になっているので仕方ないのである。それでもまだ早いなと思うミュージシャンの訃報は気になってしまう。今年に入ってからも、キャプテン&テニールのキャプテンことダリル・ドラゴンやMSGのドラマーだったテッド・マッケンナ、ジェームス・イングラム、バーニー・トーメ、トム・ロビンソン・バンドのギタリストだったダニー・カストウなどはちょっと早いなと感じてしまった。調べてみると、レベル42のブーン・グールドやスパイロ・ジャイラのバイブ奏者だったデイブ・サミュエルズなども亡くなっている。日本人では萩原健一や同年の遠藤ミチロウ(スターリン)あたりが記憶に新しい。映画俳優のジャン=マイケル・ヴィンセントも2月に亡くなっているが、彼はもう75歳になっていたので、早いというほどでもないか。時の経つ早さについていけてないことの認識を新たにする。

 

まだご存命だったかと驚いたのは、兼高かおるさんである。享年90歳なので平均寿命に近い年齢ではあるが、驚きとともに懐かしさがこみ上げ、昔の映像をいろいろ検索して観たものだ。ジャズ評論の児山紀芳氏も2月に83歳で亡くなられた。ジャズを聴き始めたころは、油井正一さんと併せて随分お世話になったものだ。それまで接してきた音楽評論とは一線を画する、品格のある文章が自分に新たな楽しみを与えてくれたことはあらためて述べるまでもない。また、高齢で亡くなられたと言えば、作編曲家のアンドレ・プレヴィンも忘れられない。やはり2月に89歳で亡くなっている。こういった高齢で亡くなった方の訃報は、悲しむというよりは大往生の人生に賛辞を贈りたくなる。経歴などを調べたりして、新たな情報を得ることでさらに敬意が増すことが多い。

 

音楽とは関係ないが、225日にジャネット・アシモフさんが93歳で亡くなられた。3SF作家のひとり、アイザック・アシモフ氏の奥様である。アイザック・アシモフは1992年に亡くなったが、その後回想録を出版したりして、なかなか有意義な老後を送られていたようだ。アイザック・アシモフは自分が最も尊敬する作家のひとりであり、一定以上の興味を持って作品を読み続けている人物である。非常に真面目で倹約家だったということで、狭い場所を好み、仕事をしまくった人生だったという。結果500冊にも及ぶ膨大な著述を残している。その作業を支えた奥方の人生がどうであったかは正確に知り様もないが、旦那さんの頭の中にあった豊かな想像力の結晶を読み返すだけでも楽しい余生の過ごし方ではないか。何とも羨ましい人生だったのではと勝手に推察してしまった訃報ではあった。

 

今年は、ドリス・デイ、ディック・デイルといった懐かしい名前も訃報として耳にすることになった。毎度思うことなのだが、ミュージシャンは亡くなっても名を残し、作品が残る。そのことが羨ましいとも思うのだ。アウトプット量の多い人間は特に羨ましく感じてしまう。ただし、クリエイティヴな人間が好きかと問われると、必ずしもそうではない。人間性と作品の良し悪しはどうも関連が薄い気がしている。自由奔放に制作活動に没頭する人間が身近にいると結構面倒なものである。ミュージシャンの訃報に接すると、当然ご家族の哀しみを思いやる気持ちもあるが、その一方で少なからずホッとしているご家族もいらっしゃるだろうと思わなくもない。少なくとも、自分の場合は後者の知り合いしかいない。亡くなられた後は、作品だけで評価される割合が高くなるわけだし、本人にとってはいい生き方だと思う。だから自分は、アーティストの訃報に接したとき、悲しむというよりは、寂しくなるとおもうのだ。とりわけ、早すぎる訃報に関して、余計に寂しくなるなと感ずるようだ。自分もいい年齢になってきて、大きな病気も経験し、死というものが身近になった昨今、いろいろな場面でのものの考え方が変わってきたようだ。さて、あまり寂しいおもいを繰り返す前に、適当なところで逝きたいものだ。

 


   

         
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