0219 10インチ・パラダイス(2019.06.16.

その昔、蓄音機で鳴らしたSP盤の収録時間は片面5分程度だったが、その不満をヴィニール素材で溝を細くすることで解消したのが現在でも生産されているレコード盤ということになる。SP盤はカイガラ虫の分泌液を固めたシェラックという素材で、重く割れやすかったが、少し柔らかいヴィニール素材にしたことで、溝も細くできたし、寿命も延びたということのようだ。ヴィニールという素材がどれほど優れたものかということは何度か書いたが、如何せん長持ちする。愛聴盤を「擦り切れるほど聴いた」と言うが、自分の場合、擦り切れた盤などない。毎日毎日繰り返し聴いて、何百回も針を通した盤ですら擦り切れてなどいない。あの表現は正しいとは思えない。

 

現在のレコード盤に関しては、まずSP盤そのままのサイズで登場したのが10インチ盤であり、収録時間は15分程度まで伸びた。次に収録時間はそのままに小さめサイズにしたものが7インチ盤(シングル盤、ドーナツ盤…)、そして歪み難い程度に大きくして収録時間をさらに伸ばしたものが12インチサイズのLP盤ということになる。回転数は、SP盤が一分間に78回転だったのに対して、ヴィニール盤は45回転と331/3回転となり、一定時間にトレースする溝の長さは短いが、ステレオにも対応しデータ量は多い。7インチ・シングルと12インチのLPは一般的な存在となったが、サイズをSP盤と同じにした10インチ盤は中途半端と捉えられたか、徐々に姿を消していくことになる。またそれを逆手にとって、レトロ嗜好をくすぐるアイテムとしてリリースするアーティストが出てきたり、ミニ・ライヴ盤としてリリースする若手もいたりと、趣味性の強いアイテムとしては人気商品となっている。

 

今般、GINGER.TOKYOの常連客でもあるH夫妻から、「10インチ盤を聴かせるイベントを」というご要望をいただいた。ある意味、挑戦状ともとれるもので当然ながら受けてたつこととした。水曜夜は年しばりのイベントが1980年代に突入し、またまたかなり混んできている一方で、土曜夜はご参加いただけるお客様の数がグッと減った。趣味性も高くディープな内容になったためと思われるが、せっかくなのでさらにディープに「It’s Only Music...But Vol.4 “The 10inch Paradise”」というかたちでやってみようと思う。結局のところ、年しばりでやっているとかけられない盤というものが少なからずあって、10インチ盤も概ね登場する機会がない。これは非常にもったいない状況なのである。オーディオ趣味的にも面白いものがあるし、そもそもピンキー・ウィンターズの「Pinky」など、10万円以上という相場を誇る盤もいくつか所有している。せっかくの音楽イベントをやっているのだから、こういったものをお聞かせする絶好の機会ではないか。

 

ペギー・リーやジョー・スタッフォード、ミンディ・カーソンなど、ジャズでもないポピュラー・ミュージックだが、やはりアナログで聴くべき懐かしい音源もいっぱいある。もちろんジャズも、クールな時代のマイルス・デイヴィスやズート・シムズの大名盤「デュクレテ・トムソン」など聴くべきものは多々ある。勿論大半が後々に再発されたシリーズのものではあるが、歴史的な価値を語る上ではなかなか貴重な盤が出番なく専用段ボールに詰まって眠っているのである。ブルーノートの5000番のシリーズも、本来ならそれだけで一回イベントをやってみたい程度の枚数があるが、そこはジャズ喫茶ではなく、ロック中心にお聞かせするカフェ故、こういった機会にご紹介することとしよう。

 

当然ながら、U2、ブルース・スプリングスティーン、デヴィッド・ボウイ、ローリング・ストーンズなどは、どういうわけか10インチ盤でリリースされた音源がいくつかあり、「10インチ・パラダイス」の中心的なものとなろう。ビートルズもメジャー・デビュー前、ドラムスがリンゴ・スターではない時期の音源があるし、ロッド・スチュワートが所属していたショットガン・エクスプレスの盤もある。こういったネタにしやすい盤も、10インチとなると存在を忘れられがちなのである。ビーチ・ボーイズは50周年記念盤としてリリースした盤などがある。なかなかいい造りのジャケットが嬉しい。

 

その一方で現代の人気アーティスト、マムフォード・アンド・サンズ、ノラ・ジョーンズ、ロバート・グラスパーといった連中のリミックス盤というものもある。これに関しては、よほど好きなアーティストでもない限り買わないが、いくつかはある。歴史的に貴重な音源から、人気アーティストのレア音源まで、という意味ではラインナップに花を添えるなかなか頼もしい盤ではある。さあ、楽しいことになってきた。まずはアーティスト順に並んでいるので、カテゴリー別に整理し直してみるか。ただその前に、一週間後の「It’s Only Music …But Vol.3」をしっかり準備しなければいけない。選曲はこれから詰めだが、何よりこちらはしゃべり過ぎないように気をつけなければいけない。いずれにせよ、他ではあり得ない内容になることは必至であろう。

 

 


   

         
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