0224 音楽の力(2019.07.21.

今日は参議院議員選挙の投票日である。ここ12週間は、SNS上でも政治的な書き込みばかりで少々ウンザリしていた。自分も言いたいことがないわけではないが、特にSNSでそういった発言をしたいとは思わない。サイレント・マジョリティを非難する書き込みも多いので、さすがSNSだなと思うが、ラウド・マイノリティの意見が大多数の意見と思いこませるような書き込みには辟易とする。1960年生まれの自分は、戦後教育の中で、強くて大きなアメリカに憧れるよう刷り込まれて育った世代である。しかも非常に人数が多い少し上の世代が、連合赤軍にまで言及するまでもなく学生運動などに明け暮れていたので、その反動も大きく、中道ノンポリが主流だったのではなかろうか。大学のゼミで教授に「まったくお前たちは」と笑われながら国際政治学ベースの比較憲法を学んでいた空気感が忘れられない。当時公法学会を主宰していたその教授から受けた薫陶は、やはり自分の人格に大きな影響を与えている。

 

周囲と比べると少し年を取ってはいたが、大学に通っていた1980年代前半は、いろいろ刺激的な時代でもあった。1979年にエズラ・ヴォーゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」がベストセラーになり、時代が動いている実感はあった。日本が世界一だという言われ方をするとは夢にも思わなかったし、これは反感を招くとしか思えなかった。80年代に入って、日本車輸出の自主規制が取り沙汰された頃には日米貿易摩擦が表面化し、ジャパンバッシングという言葉が、ニュースで毎日流れるような時代がやってきた。1985年のプラザ合意も円高に誘導するものだったが、レーガンの野郎は日本製品に100%などという法外な制裁関税をかけるまでになったのだ。昨今の米中貿易摩擦と同じようなことを、もっと過激なかたちでやっていたのが1980年代の日本であると自分は思っている。そういった歴史を知らない連中が、平和や外交を語ることにも違和感がある。押し技も引き技もあって、軍を持たずに74年もの無血状態を続けてきたことは評価に値する。かといって手放しで現政権を支持するとは言いたくない。音楽好きなどという生き物は、平和でなければ生きられないのである。

 

さてトークイベントは1985年まできた。この時代は、英米日で経済状況がまるで違うので、ミュージック・クリップにもそのことが色濃く反映している。70年代の不況を潜り抜け、景気が上向いた英国では、ワム!のような、華やかで軽快な音楽が大ヒットする。クリップも妙にバブリーで、結果上り調子の日本でも受けたわけだとあらためて納得する。一方で、米国は深刻な不況に喘いでいた。特に安い日本車の影響を真っ向から引っ被った自動車産業が大打撃を受けていた。日本車を叩き潰し、穴に埋めるニュース映像はなかなか刺激的だった。ブルース・スプリングスティーンが「アイム・オン・ファイヤー」のクリップで、自動車整備工場で働いている設定の演技をしているのも、彼の立ち位置から必要だったことなのだろう。今でこそ笑えるが、当時はその意味するところが100%理解できたわけではなく、様々な評論でハートランド・ロックなどというものの存在や、政治的なスタンスまで反映した歌詞であることなど、学ぶべきことも多かった。ダイアー・ストレイツの「マネー・フォー・ナッシング」をはじめ、直截的な歌詞が多くなったようにも思う。

 

アメリカでは貧富の差が日本では想像もつかないほど大きいので、一概には言えないのだが、ミュージック・クリップで豊かさを誇示する向きもあれば、古き良き時代を懐かしむ懐古主義的なものも多くなっていたように思う。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のように、時代の変化をストーリーに取り込んだものもあった。それでも豊な日常生活を思わせるシーンが多々出てくるわけで、日本がそこまで叩かれなくてもという気はする。地域格差なども考慮すると非常に難しいことになるが、TVドラマ「マイアミ・ヴァイス」に目を向けると、やはり豊かさの層の厚みが日本では理解できないレベルのようにも思わせる。勿論そこには貧富の差があり、それ故の犯罪がある設定ではあるが、全体の印象はバブリーなまでに豊かである。

 

1980年代はエイドものの起点であり、プリンス・トラストなど、音楽の力で様々な社会貢献が可能であることが示された時代でもある。政治的には地球上から紛争が絶えることは瞬間でも無いが、この時代、音楽の世界では世界融和を希求していた。後々、ラップの世界でディスり合ったりする好戦的なニュアンスもまだそこにはない。スポーツの祭典、オリンピックですら政治のツールにされてしまった当時、音楽の世界が示したすべての人々の平和と安全を願うスタンスがどれほどの力を持っていたか知る由もない。ただその力で救われた命が何万とあることを忘れてはならない。平和であってこその音楽、音楽がもたらす平和、お花畑の住人と呼ばれてもいい、ピアニストを撃つな。かつて政治では得られないパワーもあったではないか。

 


   

         
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