0225 10インチは面白い(2019.07.28.

昨夜はトーク・イベント「It’s Only Music … But Vol.4 “10inch Paradise”」の開催日だった。隅田川花火大会にぶつけてしまい参加者数は少なかったが、非常に濃い内容となったように思う。おそらく10インチ盤のコレクター諸氏からすれば大したコレクションともいえない200枚ほどではあるが、それなりに幅広いラインナップがイベントには向いていたようだ。特にジャンルを絞り込むことはせず、ただ単に10インチ盤を鳴らすということに徹したため、深掘りはできないが、普段なかなか聴くことがないようなレア音源などを楽しむスタイルとなった。映像も少しは用意したものの、古い音源が多くなるため、あまりいいものがない。むしろ後半は用意したものも使わずに語りまくってしまった。

 

今回は準備段階で、いろいろ作業をするわけではなく、とにかく所有している10インチ盤を眺めながら考えることに多くの時間を費やすことになった。如何せん、ウェブ上に10インチ盤の情報はあまり載っていない。各ミュージシャンのWikipediaには詳細なディスコグラフィが掲載されているとはいえ、LP(アルバム)とシングルの情報に限られる。10インチ盤や12インチ・シングルの情報は皆無なのである。グーグルでいろいろ検索しても、過去に自分が書いた文章が先頭に出てきたりする。元々紙媒体でも取り上げられることは少なかった。どこまで集めればコンプリートか知る由もない世界であり、自己満足でしかないのだが、コレクターはそそられないということか、コレクター泣かせということなのか、すべてが手探りに近い。その結果、10インチ盤のイベントをやるとなった時点から、どう分類するかを考え抜くことになったのである。

 

一旦は14分類まで細分化し、見直しの中で8分類まで減らし、イベント前日まで粘って、最終的に10分類に落ち着いた。資料は結局ブルーノートの5000番台の一覧など一部を除き、すべて自分の文章ということになってしまった。イベントはこの分類に従って、順に代表的なものをお聞かせする形で進行したのである。まずは「A:レトロ・アイテムの現物」、そして「B:レトロ・アイテムの再発」ものというところからスタートした。以前にダウンタウンレコードで入手した2枚、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツ「ロック・アラウンド・ザ・クロック」と「黒いオルフェ」のサントラ盤からスタートした。続いてマレーネ・デートリッヒ「リリー・マルレーン」だ。以前にも下町音楽夜話でご紹介したことのある、10インチ盤がアマゾンで安く売りに出ていたので、近年の再発盤だろうと思って注文したら、油紙に包まれたえらく古めかしい盤が英国から届いたというものである。

 

こういったリアルに古い盤は普段あまり針を落とさないが、たまにイベントなどで使うと予想外のことが起こる。溝の奥に溜まっていた60年分の汚れを掻き出してしまったか、イベント終盤には針がおかしくなり、慌てて交換するハメになってしまった。いずれも音の良し悪しではなく、時代の音が鳴っているという感触が心地よい。低音成分は少ないがこれはこれでいいのだと思う。続いて再発盤ですら既に十分レトロな白人女性ヴォーカルもの、ピンキー・ウィンタース、ジョー・スタッフォード、モニカ・ルイスあたりで、絶対的にアナログで聴きたい声というものを堪能した。

 

さらには、今回のイベントの一つの柱、有名ジャズ・レーベルの再発シリーズのご紹介である。ブルーノートの5000番台、プレスティッジ、ベツレヘム、ヴォーグ、ストーリーヴィルといった1950年代前半を中心にした音源である。マイルス・デイヴィス、オスカー・ペティフォード、アンリ・ルノー、ズート・シムズといったミュージシャンにコメントを付しながらすべてを回覧していく。この辺りの盤はジャケット・デザインも楽しんでいただきたいので、コメントもそういった部分が多くなる。次に「C:ライヴ音源・放送用音源」だ。古いライヴ音源は曲数も少なく短い。10インチ盤でリリースするという理由がはっきりしているものが多い。ビートルズの猛烈な歓声付き音源、ローリング・ストーンズのチェス録音の「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」、ラジオ音源はボブ・ディラン「ハリケーン」などだ。ブルース・スプリングスティーン、ウルトラヴォックスなども貴重なライヴをご紹介した。

 

分類で非常に頭を悩ませたのは、「D:長めのシングル盤・Rimix盤」である。他の分類と兼ね備えているものが多いものの、やはり括りたくなる一群だ。プログレ・タンゴのゴタン・プロジェクト「サンタ・マリア」、マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイング・オン」、ノラ・ジョーンズ「グッド・モーニング」、ネルソン・マンデラの映画のサントラからU2「オーディナリー・ラヴ」といった、バリエーション豊かな曲を続けた。最後に分離独立させた「E:サンプラー」として、ルル・ゲンスブール、ビル・エヴァンス、タートルズといったあたりもここで鳴らしてみた。カラー・ヴィニールも多く、楽しいあたりだ。

 

我ながら面白いと思うのは、分類上1980年代以降にリリースされたものを中心とした「F:レトロ感を演出するもの」だ。大瀧詠一、ビートルズのメジャー・デビュー前のヤング・サヴェージ・ビートルズ、リッキー・リー・ジョーンズ、ロッド・スチュワートが在籍していたショットガン・エクスプレス、テイ・トーワ+チャラというラインナップは普通並ばない。そして今回のイベントのもう一つの柱、レコード・ストア・デイなどでリリースされることの多い「G:レア音源集」である。ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、スティング、キシバシなどである。この辺りはいくらでも細分化できるのだが、細かすぎても混乱してしまう。終盤は、「H:記念リリースもの」、ビーチ・ボーイズとローリング・ストーンズのバンド結成50周年記念盤や、デヴィッド・ボウイをフィーチャーしたデヴィッド・ギルモアによるシド・バレット追悼盤「アーノルド・レーン」などをご紹介した。併せて、「I:ピクチャーディスク盤」はラッシュやブラック・クロウズなどを回覧、最後が「J:高音質シングル」ということで、ニルヴァーナで締めとなった

 

参加者の皆さんからは、毎度「面白かった」というお言葉を頂戴できることが嬉しくて続けてはいるが、手伝ってくれるつれあいやスタッフからは「お客さんが集まらなければ意味がない」という厳しいお言葉も頂戴している。改善の余地はあろうが、店のアイデンティティは十分に確立されてきているし、もう少ししっかり宣伝でもして頑張るしかないだろう。8月はお盆休みもいただくし、自分の体調がイマイチということもあって、一度お休みをいただくことにした。しっかりリセットし、態勢も立て直して今後に備えたいとは思う。It’s Only Music…Butという言葉通り、たかが音楽、されど音楽、ということになるようだ。

 


   

         
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