0229 便利な世の中になったものだ シャザム(2019.08.24.

音楽というものは、実に環境で聴こえ方が違うもので、同じものを聴いて期待以上だったり、裏切られた気分になったり、何とも複雑な心境をもたらすものである。外出先でたまたま耳にして、そのフレーズが忘れられず、いろいろ調べて曲やアーティストにたどり着いたはいいが、店の大きなスピーカーと正対して聴いてみたらイマイチだったということを繰り返している。そもそも最近はシャザム(SHAZAM)などという便利なアプリもあり、苦労して調べるなどということが減ってしまった。ラジオでかかった曲も、ウェブサイトで何時頃のオンエアだったかを記憶していれば、ほぼ問題なく誰の何かが判ってしまう。有り難いような、寂しいような、やはり複雑な心境だ。

 

昔話ばかりしても詮無いことだが、以前は音楽雑誌が貴重な情報源だった。音も聞こえない情報ソースで、自分の好みのレコードに辿り着けるようになるには、それなりの知識を蓄える必要もあった。それでも、ある程度の憶測や希望的な感情も含めて、その後大事な一枚となるレコードに出会えた感動というものは、なかなか悪くないものだった。加えて、ジャケ買いもある。ジャケットを見ただけで、音を聴かずに買ってしまう行動は、案外誰もが経験しているようだ。自分はクレジット・オタクのようなところがあるので、カンニングをしながらに近いジャケ買いが多いが、参加ミュージシャンと録音スタジオ、エンジニアなどの情報である程度の音の傾向は判るので、ハズレは少なくできているのではなかろうか。ジェフ・ベックや渡辺香津美のようにアルバムごとに傾向が大きく異なるアーティストは、当然ながら新作の音など推測できるものではないが、この辺のアーティストは関連音源も含めて全て購入するので、大して気にならない。

 

最近はアメリカーナなどと呼ばれるルーツ・ミュージック系のアーティストが意外に難しい。ブルース寄りのものは、好きなものが多いというかほぼ全てアタリだが、カントリー寄りのものはハズレが多くなる。それでも、マッシュル・ショールズ系やシェルター系、ダン・ペン絡みなど、自分の好みと判っているものはほぼハズレないし、ジョン・クリアリーやスタントン・ムーアあたりの現代ニュー・オリンズ系はここ数年ハマリ続けているので、開拓の余地がたっぷりある。そして、何が言いたいかというと、このあたりの音源、意外なほどシャザムでは辿り着けないものが多いのである。当然ながらデータベース化された情報と照合をかけているのだろうから、この辺の音源があまりしっかり収録されていないのかと思われるが、それでも普通に考えれば十分以上の正解率である。

 

また、音楽を聴かせるカフェにやってくるお客様は、皆さんシャザムをお使いのようだ。お連れさんがいる場合はスマホの画面を見せたり、一緒に画面をのぞき込みながら会話がはずんでいらっしゃる。特に問い合せられることを期待しているわけではないが、シャザムのおかげでラクをさせてもらっているという印象はある。間違いなく、ある。それでも、一部のお客様はさらに突っ込んだ情報を引き出したくて「すみません、マスター!」とくる。その時点で曲やアーティストは特定されているわけで、参加ミュージシャンに関する情報を求められたり、「鳴りがいいけど再発盤ですか?」とか、「今でも手に入りますかね?」といった会話になり勝ちなのである。調理中にキッチンからオーディオセットのところまで走って行って、ジャケットを確認してなどとやっている余裕があるときはいいが、激混みのランチタイムなどにお声がけいただいたときは、ほぼ自分の知識と記憶が頼りとなる。自分のかけているものだから全て頭に入っているかというと、そうでもない。とくにランチタイムは10万曲ほど突っ込んであるHDDプレーヤーを流しっ放しにしているので、苦しいときもある。まあ、それでも、こういったカフェをやっていて一番楽しい瞬間だ。

 

先日、あるお客様から「最近はスマホのアプリでほとんどの曲が判るのに、この店でかかっている曲はなかなか情報に辿り着けない。どうしてなの?」と言われた。正直言って、どんな人間が開発したアプリか知らないし、スマホのマイクがどんな特性を持っているかも分からないので、自分には答えが判るはずもない質問なのだが、やはり「レアなレコードをかけているのか?」という程度の質問なのだろうと勝手に置き換えてお応えした。「すみませんね、毎度マイナーなのばかりかけてて」と言うと、「そういう問題なのかなあ」と考え込まれてしまった。「アナログの音とデジタルの音で違いが出るということはないですよね?」などとおっしゃっている。こちらは黙って笑うしかない。内心「アナログの方がオリジナルなんだけどな」と思いつつ、「そうですねぇ」としか言えない。アナログ・サウンドだから辿り着けないなんて絶対におかしいし、音質の問題でもなかろう。

 

加えて言えば、最近は周辺情報の充実ぶりが凄いのだ。曲を特定できたとして、何年に公開された「なになに」という映画で使われているとか、アーティストの経歴などもしっかり出てくる。2007年頃までは、ウェブ上の情報よりも自分のデータベースの方が頼りになると思っていたが、10年ちょいで随分状況は変わったということなのだろう。マッタク便利な世の中になったものだ。ただし、お客様にあらかじめお断りしておくが、音楽談義の中で「あの曲、判りますか?」と言ったときに、「歌ってみて」とスマホを突き出してくるのだけは止めて欲しい。私の下手な鼻歌で正解に辿り着けるわけないではないか。そこまで便利な世の中ではない。

 


   

         
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