0230 1987年の時代考証(2019.09.01.

Music & Talk “The 1987”が無事終了した。母親が入院しており、そろそろなどと言われていることもあって、一週間開催日を遅らせていただくなど、直前までバタバタしたうえ、当日も半分以上の方が遅れていらっしゃるような状況で、文字通りの「無事終了」ではないが、何とか終了できたことにかなり大きな喜びを感じている。毎度毎度いろいろなことが起こり、どうにもこのイベントに関しては開催させたくない方向の見えない力が働いているように思えるのだが、何かしら無理があるのだろうか?

 

そもそも、公務員を早期に退職して、趣味性の強いカフェを経営しているということだけでもいろいろ言われたり様々なメディアで取り上げていただける有り様だが、そこには開催させたくない方向の力は無いと思う。また、アナログ・ブームに丁度タイミングがあってしまったこともあって、アナログ・レコードを聴かせるというコンセプトはさほど無理があるとは思えない。ただし機器の一部は長期間使い続けてきたものであり、かなりくたびれているし、ほぼ連日34時間睡眠で猛烈なハードワークをこなしながらやっているので、人間もくたびれてはいる。しかし、そこに原因があるようなトラブルはない。レコードは40年以上もかけて集めてきたものであり、普通以上にものは揃っているはずなので、余所ではあり得ないような内容にできてはいると思うのだが、果たしていかがなものか?

 

思うに、最後の部分はさらに強調すべきことでもある。あくまであちこちで開催されているようなDJイベントとは違い、「サブカル人類学」とか「近現代史の講義」などと言われることもあるほど、トークの内容は濃いものにしている。曲の解説にとどまらず、時代背景やその時代の空気感を再現することにも拘っていろいろ仕掛けているので、記憶を整理することのお役にも立つだろう。選曲のセンスなどで勝負しているわけではない部分の面白さに関しては、相当のものだろう。ただ残念なのが、毎度多岐にわたる時代考証資料も用意している割に解説することを忘れてすっ飛ばしてしまったり、当日になってニュース映像が見当たらなくなってしまったりといった、情けない現状が一方にあるのだ。「もう年なんだから仕方ない」と諦めているようなことも口にするが、内心情けない気持ちでいっぱいだったりもする。

 

1987年の時代考証としては、世界人口が50億人を突破した年であることの関連資料や、アメリカの人口統計とヒスパニックの割合の資料をお配りした。また日米貿易摩擦の資料も面白かったのではなかろうか。如何せん当時のレーガン政権は日本車と日本の農産物に100%というとんでもない関税をかけてきたのだ。米中貿易戦争の比ではない100%という数字を、どれだけ現実味を持って伝えられるか、自分のトークでは不十分だろうが、とにかく資料は数字がものを言う。後から見返しても面白いので、時代考証資料は今後も増やしていこうと思う。如何せんまたまた80年代の終りが見えてきて、その後どうするかということが話題になり始めたのだ。参加人数はガクッと減るだろうが、1969年からもう一巡してというのが大方のご意見である。

 

さて、アメリカの人口構成とヒスパニックの資料をお配りしたことに関しても付け加えておこう。とにかくテックス・メックス・ブームというものもあったが、このイベントで強調したのは民族多様性とアンチ・ナショナリズムを感じさせる曲が多かったということなのだ。まずはグラミー賞のレコード・オブ・ザ・イヤーを獲得し年間チャートの2位に入ったのがポール・サイモンの「グレースランド」である。アフロ・リズムの素晴らしさを世界に認知させた貢献度は特大である。ちなみにGINGER.TOKYOではヒューストン国際映画祭でグランプリを受賞された小田浩之さんと写真家の福崎幸治さんの写真展「HOWL」が開催中で、壁面にはグレースランドの大判写真も3枚飾られていた。これも何かのご縁ということでご紹介したが、有り難いスパイスになったと思う。

 

他にはニュージーランドのクラウデッド・ハウスの「ドント・ドリーム、イッツ・オーバー」や、「イングリッシュマン・イン・ニュー・ヨーク」を含む大名盤「ナッシング・ライク・ザ・サン」をリリースしたスティングも忘れてはならない。この後のヒスパニック・ブームに拍車をかけた重要曲、マドンナの「ラ・イスラ・ボニータ」と、民族多様性を思い切り強調しているダンサー布陣になったマイケル・ジャクソンの「バッド」に関しても、かなりの時間を割いて解説してみた。はてさて、どこぞの文献に書いてある話でもない。自分自身が当時を振り返って、時代の空気感として印象に残っていることを表現しているだけなのだが、これをイベントというかたちで時間をシェアできる場が他にあるだろうか。前後の時代を通じてヘヴィメタル・ブームが確かに存在する中、映画「ラ・バンバ」の大ヒットと共に、ロス・ロボスの存在感は時代の象徴でもある。背景にある複雑な政治的問題も含め、若く勢いのあるヒスパニック系の新たな危険な香りを伴った魅力は、新たな時代を感じさせる十分なインパクトがあった。

 


   

         
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