0238 忘れられた名曲群の記憶(2019.10.26.

マイ・フェイヴァリットは何かという話題は音楽好きにとって課題のようなものである。自分はいろいろなジャンルを幅広く聴くので、時と場合によって違うことを言う。親しい人間は理解してくれると思うが、気分次第でまるで別人でもあるので、「無人島の一枚」は苦手である。最も多く登場するのは、ロックではレッド・ツェッペリン、ポップスではキャロル・キング(とりわけ「つづれおり」)、ギターに絞ればミック・テイラー(特にファースト・ソロ・アルバム)、ジャズではマイルスのカインド・オブ・ブルー」、パット・メセニー・グループ「オフランプ」あたりか。近年最も多く聴いているのは、ノラ・ジョーンズやマデリン・ペルー、ソフィー・ミルマンといった女性ヴォーカルだし、鬱々とした日だとニック・ドレイクもいまだによく針をおとす。

 

自分でも面白いなと思うのは、今でもしょっちゅう聴いているし好きなはずのイーグルスやドゥービー・ブラザースといったあたりは、こういった話題の折に登場することが少ないということだ。また、レオン・ラッセルやドン・ニックス、ダン・ペンといったあたりもやたらと聴いているはずだが、フェイヴァリットの話題ではあまり登場しない。ビートルズやボブ・ディランは、「世代が違う」と言って逃げることが多いが、聴き始めたのが遅く、好きな音源も多いわりにフェイヴァリットのネタにはなり難い。特にボブ・ディランはアナログで聴きたいという意思すら抑えているので、主要なアルバム数枚しか持っていない。全オリジナル・アルバムの音源を所有しているはずだが、9割がたCDで済ませている。ストーンズは多くをリアル・タイムでも聴いているし、アナログでも揃っているので、もう少しポジションは上のはずだが、フェイヴァリットの話題には何故か馴染まない。ミック・テイラー在籍時のアルバムは格別好きだという程度だ。

 

さてそのエクスキューズまみれのフェイヴァリット・ネタの中で、やはり面白いポジションにあるのがミック・テイラーというギタリストだ。レス・ポールを好むあたりも含め、音的には文句なしに大好きだが、では彼が参加している音源を揃えているかというとそうでもない。ジョン・メイオールのブルースブレイカーズに参加した音源は多々あることは承知しているが、まったく食指が動かない。これはお客様との音楽談義の中でも「そこじゃないんだ」という言い方で大抵通じるので、そこから先は踏み込まないようにしている領域とでも言うべきもののようだ。むしろ、これだけ有名なギタリストなのに、そのセッション・ワークなどの情報が意外なほど少なく、時々アルバムのクレジットで名前を見つけては驚かされるといった程度で楽しんでいる。英語版のWikiは相当情報量が多いほうだが、まだ完璧ではない。自分の大好きなフィービー・スノウのアルバムに参加した情報も現時点では漏れている。困ったものだ。

 

さて、先般の台風でイベントが中止になってしまい、次回は何をやるのかということをいろいろな方からお問合せいただいたりしている。「中止は中止、延期ではない」ということで前回予定していた内容でやることはしない。そこで初心に戻り、「忘れられている名曲」を紹介する内容で一度やって、気分的にリセットしたいということになった。その次は既に映画音楽というリクエストをいただいているので、年末のジンジャー・パーティを挟み、新年の第一回が映画関連ということになる。まったくもって有り難いことだ。

 

なぜ「初心」という言い方をしたかというと、2014年の9月に放送されたFM東京のデジタル放送であるミュージック・バードの番組でゲストに呼んでいただいたことがあり、その時の内容が「忘れられた名曲」をピックアップしてかけるというものだったのだ。「循環器系病人あるある」だろうが、どういうわけか近年の記憶がズタボロな反面、昔の記憶が気持ち悪いほどしっかりしているのである。せっかくなので、その症状を逆手にとって年刻みのイベントなどもやっているわけだが、「忘れられた名曲」という切り口で考え始めると瞬時に2030曲は出てくるのである。イベント一回分のプレイリストは23分で作れることになる。自分が最近聴いているラジオはJ-WAVE中心なので、その判断基準はテキトーかもしれないが、専門誌やウェブページの情報なども総合的に判断して、「いい曲なのに忘れられているよなぁ」と思える曲が結構な数思い浮かぶのである。

 

ちなみにせっかく7インチ盤専門店をやっているわけで、プロモーションも兼ねて、極力アナログ・レコードでお聞かせする、それもできるだけ7インチでというスタンスは堅持しているわけだ。そこで今回ふと気になったのが、ボブ・ディランの1984年の「リアル・ライヴ」からのシングル・カット「追憶のハイウェイ61」にミック・テイラーとイアン・マクレガンが参加していたなということなのだ。Wikiの日本語版でも英語版でも無視されているこのシングルが実は非常に好きなのだ。ボブ・ディランが宗教色濃くなった時期のもので、世間の評価は低いのだが、自分はこの時期の音源が結構好きなのである。いつかはイベントでご紹介したいと思っていたもので、アタマの片隅に常駐していたのだろう。ようやく出番ですよというわけだ。自分の決していい状態とは言えない脳みそのリハビリを兼ねた、忘れられた名曲群の記憶を探る楽しい作業にお付き合いいただければと思う。

 

 


   

         
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