0249 ゴダールと宮沢賢治(2020.01.12.

どうも自分は研究的に一人の作家やアーティストの作品を追いかけていく性向があって、この性格が趣味を充実させているようにも思うし、つまらなくしているようにも思う。読んだり集めたりすることに一生懸命になりすぎてしまうのだ。多くのロック・ミュージシャンに関しても同様の感覚で、データベース片手にアナログ・レコードを集めていった。1980年代後半から90年代前半の頃で、金と時間に余裕があった時期である。そのせいか、自分は誰かのコレクターとかいうものではないが、1970年代のロック全般に関して、可能な限り買い集めたコレクションを保有しているのである。

 

読書に関しても、やはり気になる作家は全て読まないと気が済まない性質で、夏目漱石と島崎藤村を20歳のときに制覇してから一気に幅広くという方向性に移行した。村上春樹に関しては2010年頃に自作のデータベースで翻訳も含め全制覇到達したが、その後は興味が一気に薄れてしまった。どうも趣味的な行動のはずなのに、楽しんでいるとは思えない。コレクターの性の典型で、とにかく全制覇を目指してしまうのだ。そんな自分にとって、今のところ課題となっているのが、宮沢賢治とジャン・リュック・ゴダールだったりするのである。これもウェブのおかげで、一応のリストが容易に作れるからできる趣味ではある。有り難い時代である。

 

宮沢賢治は作品が多すぎて全制覇するのは困難であることが知れているため、どうも先に進まない。宮沢賢治は1896年に生まれ、1933年に37歳の若さで亡くなっている。夏目漱石の文庫化されている作品を全制覇した時、次を考えて誰を読むか検討したときに、宮沢賢治は有力候補だった。しかし、1980年当時でウェブもなく、容易にデータベースを作れるものではなかった。ノートに作品一覧を作ってみたが、どうにも全容がつかめない。それどころか、大きな本屋に行っても、ほんの一部しか置いていない。これは難航するぞと端から分かっていたので、避けて通ってきたようなところもあった。1996年の生誕100年の頃も、いろいろなリーフレットのようなものが出回り、宮沢賢治ブームのようになった時期もあったが、どれも完璧でないことが容易に知れ、諦めていた。その後ウェブの情報が充実してきて、ここ数年はまたまたブームかと思いたくなるほど宮沢賢治に関する情報は充実してきている。門井慶喜著「銀河鉄道の父」のヒットも手伝ったか、昨今の作品一覧は相当のレベルまできたと思う。

 

一方で、ジャン・リュック・ゴダールに関して自分が語るのはおこがましい。特別ゴダール作品に詳しいわけではないし、多くの作品を観たわけでもない。それでも「勝手にしやがれ」や「女と男のいる舗道」、「気ちがいピエロ」など忘れられない映画がいくつかあり、DVDで何度も観ていたりする。気にはなるものの作品が多すぎて手に負えない監督だったのだ。そのジャン・リュック・ゴダールは1930年生まれ、現在は89歳となる。ヌーベルバーグの旗手として注目を浴びた初期の作品はいずれも魅力あふれるものだが、1970年代の政治的なメッセージが強い作品にはあまり惹かれない。この辺が難しくしてくれる理由でもあるのだが、自分にとっては当たり外れがはっきりしている監督というわけだ。

 

先日、京都旅行の途中で毎度立ち寄らせてもらう100000tアローントコというレコード・ショップで、実に嬉しい収穫に遭遇した。前々回でも書いたが、宮沢賢治の絵本「猫の事務所」(1994年 偕成社)とゴダールの映画「女と男のいる舗道」の7インチ盤シングルを入手できたのだ。しかもどちらもわが目を疑うほどの美品である。古いものに強い京都に遊びに行く楽しみは、まさにこういった収穫があるからなのだが、今回のこの一冊と一枚は強烈だった。自分の頭の中でこの辺のものが欲しいなと思っていたど真ん中のものだったからだ。正直なところ絵本はLPレコードとさほど変わらない大きさであり、7インチ盤に絞って漁る意味がなくなってしまったのだが、これはもう即決だった。

 

ゴダールに関しては、コンプリートを目指す意識が薄い。それでも初期の名作に関しては、普通以上に興味があり、7インチ盤はとりわけ入手困難なこともあって、あればとにかく買いである。「女と男のいる舗道」は何とも味のあるアート性の高いスリーヴのデザインが魅力的な一枚だ。これを飾っておくだけでもしばらくは楽しめる。ストーリーは好き嫌いあるだろうが、当時の若者には相当のインパクトがあったことだろう。当時ゴダールの奥さんだったアンナ・カリーナの魅力も相当だ。個人的には煙草が嫌いなので、100%は好きになれないのだが、こればかりは古い映画にはつきものでもあり仕方がない。

 

大変失礼かつ不謹慎な物言いであることを承知の上で書くが、ゴダールは89歳なのである。とにかくご存命のうちに買えるものは買っておきたいのだ。デヴィッド・ボウイやグレン・フライのレコードで痛い目に遭った後だけに、ちょいと急いで探しているのである。宮沢賢治は特別に急いではいない。のんびりと状態のいい本を探していこうと思っている。2020年の抱負などというものはない。目標という程でもない、テーマのようなものとしてこの2人に注目しているところである。

 


   

         
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