0254 商売は難しい(2020.02.16.

7インチ盤が売れている。ショップ・イン・ショップで清澄白河のカフェGINGER.TOKYOに入っている45rpmは7インチ盤の専門店である。2,500枚ほどの7インチ盤のうち、99%ほどはスリーブ付きの国内盤であり、店主が4050年かけて買い集めてきたものを売っている。今のところ、買い取りはしていない。あくまでも品揃えと盤のクオリティを維持するためであり、何度かは寄贈も受けているが商品として並べたことはない。1980年代後半から1990年代前半のアナログ氷河期に買い集めたものが大半だが、1970年代前半にリアルタイムで購入した貴重なものも少しはある。子どもの頃からモノの取り扱いは丁寧な方だったので、50年前の盤が驚かれるほどの状態で保管されている。アナログ氷河期に購入したものは、購入したままの状態で押し入れに眠っていたものが多く、やはりクオリティはかなり高いと思われる。

 

昨今の売れ筋は、一部の邦楽と1980年代のロック、そして定番のビートルズ関連といったところだ。一部の邦楽とは、ここ数年アジアでブームと言われているJ-POPのことである。YMO、山下達郎、大瀧詠一は相変わらず好調な売れ行きだ。最近は山下達郎関連で竹内まりやも売れる。またCharBoowyも時々売れるが、この辺りは「売りたくない度」が高くなるので、値札を見て諦める方が多い。ただウチの場合、カフェのお客様に対するサービスの意味も兼ねているので、多めに飲食してくださったお客様にはお値引きもする。そもそも「価格交渉をお楽しみください」という、昔のスタッフが作ったポップが貼ってあるので、値札は参考程度なのである。お話しをしていて、どうしても欲しいということであれば、50%引きもある。

 

そもそも「売りたくない度」が価格の決定要因ということの意味は、永年Disk UnionRecoFanに通っていて、カラダに染みついたレア度感覚がベースにあるということなのだ。自分の好きな1970年代から80年代のロックはアルバムで購入するのが当たり前だったこともあり、7インチ盤が多く出回っているとは言い難いため、レア盤が非常に多いのである。レッド・ツェッペリンやジェフ・ベックなども7インチ盤がそもそも珍しい。パンクやニューウェーブ系の7インチ盤も少ない。コアなファンが多そうなアーティストのものは、意外に状態のいいものが多く出回っていたりするので、一概には言えないのだが、概ね間違っていない感覚は持っていると自負する。ときどき「安すぎる」と言われることがあるが、これは相場を知らないからかもしれない。

 

中古アナログ・レコードの相場というものがどうやって形成されるかは知ったことではないが、やはり多くのレコード好きが通うDisk UnionRecoFanの価格は参考になるだろう。見ている限り、データベースがあって、盤質との兼ね合いで価格が決まるのだろう。しかし7インチ盤に関しては、随分値付けが荒い気もする。恐らく7インチ盤の価格を3040年とチェックし続けている人間などそう多くはないだろうから、自分の感覚が例外かもしれないが、昨今の高騰ぶりは目に余る。450円程度で売られている一般的なヒット曲に混じってレア盤も同様の価格で売られていたりもするが、盤質に関しては大して期待できるわけがない。問題はだれでも納得のレア盤などで、2万円などという値札を見ると上げ過ぎという気になる。

 

45rpmでも高いものはある。絶対に売りたくないものは高くしているが、それでもドナルド・フェイゲンの「I.G.Y.」やピンク・フロイドのレアもの以外、特別に高くはしていないつもりだ。ただ売れてしまったもので、その後手に入らないものは「安過ぎたか」などと考えたりするのはなかなか楽しい。そもそもヒット曲などというものは、人それぞれで思い入れがあったりするので、300円や500円の値札の盤でも喜んでいただけることは多い。一旦処分してしまったものを買い戻しているという方も多い。一定の年齢になって余裕が出たということか、また最近はレコード・プレーヤーを安価で買える状況になってきたこともあるのだろう。とにかく「状態のいいものが欲しかった」というような、思い入れの強い盤に出会えて嬉しそうにお会計をしている方の笑顔は格別である。

 

どう思い入れがあるかを、いろいろ語ってくださる方もいらっしゃる。そこで音楽談義が少し交わせることが楽しくてやっているようなものなのだ。普通のレコ屋と同様、黙ってお代だけ払って帰られる方とは交流が続かない。その点では、清澄白河界隈の面倒な店の仲間入りをしたということだろうか。個人経営の店が多いだけに、さっさと買い物を済ませたい方々には面倒な土地なのだ。とにかく最近カフェが猛烈に混んでいて、音楽好きのお客様とゆっくり話している余裕がないことが悲しい。自分が目指してきた状態にようやくなってきたら、混み過ぎて「これがやりたかったんじゃない」となっているのだから、全くもって商売は難しい。元役人が商売上手のはずはないが、何とかならないものか。

 


   

         
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