0266 ブリンズレー・シュウォーツはバーボンの香り(2020.05.10.

新型コロナウィルスの騒ぎで休業を余儀なくされ、時間があるならとNoteを始めた。文章や写真・イラストなどをクリエーターが発信するためのクラウド・サービスだが、意外なほど使い易く、またいろいろモチベーション・アップのための工夫がされており、日々音楽ネタを中心に書いている。週1本、18年続けてきたこの下町音楽夜話と同程度の長さでほぼ毎日アップロードしているが、少しは反響もあって面白い。

 

5月からは、BASEという通販サイトのサービスも始めたので、何気に忙しい。5月からと言っても、開業までに500枚弱の入力を済ませたので、実は4月後半は猛烈な忙しさだったのである。休業開始後にまずしっかりやりたかった店の大掃除を済ませてから始めたが、睡眠時間を削って入力しまくっている状況は想定内、どうせこうなるだろうと予測していた。結局毎日新入荷(もちろん蔵出しだ)をアップしているが、売れることなどあまり考えていない。結局のところ、店の集客の一環としての意識なので、少しでも楽しくやっていられればそれでいいのだ。むしろ先の見えない日々の現実逃避的作業でもある。

 

さて、日々音楽ネタの文章を公開し、販売用のレコードの情報を入力しているわけで、あえて下町音楽夜話で書きたいネタがない。こんなことは久々なのだが、こういったときは以前から、あらぬ方向を見ながらレコードラックに手を伸ばして10枚ほど取り出し、それについて書くようにしている。今回はカラダが固い自分の目には触れにくい最下段からいってみた。ファミリー・ネーム順なので「L」のあたりだという見当はついていた。ニック・ロウの最近の盤数枚と一緒にブリンズレー・シュウォーツのアルバムが5枚出てきた。さて、一時期ドはまりしたパブロックだ。思い出したくない気もするが、何やら書くとするか。

 

ブリンズレー・シュウォーツはバンド名であり、このバンドのリーダーの個人名でもある。ドイツ語的にはブリンズレー・エルンスト・ピエテル・シュヴァルツは、ギター、サックス、ピアノそしてヴォーカルまでこなす器用な人間だが、リーダーシップをバリバリ発揮する性格ではないようだ。バンド解散後はキーボーダーのボブ・アンドリュースとともに、グレアム・パーカーのバックバンド、ルーモアのメンバーとなっている。ここにはベース兼ヴォーカルのニック・ロウと、途中から合流したギターのイアン・ゴムがいたので、いまだにパブロックの代表的存在として語られる伝説のバンドである。結局曲もこの2人が多く書いているので、リーダーは実に影が薄い。つい寂しくなる。

 

自分はエルヴィス・コステロ経由でニック・ロウにハマり、ブリンズレー・シュウォーツに辿り着いたので、リアルタイムでは全く聴いていない。当時は中学生の頃、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルなどのほうがとっつき易かった。カントリー要素も漂わせるロックン・ロールのプリミティヴなスタイルのパブロックは、強い酒の味を知り、血を吐くまで飲んでから理解できるものだ認識している。自分がそういうことを繰り返し、荒れた生活だった一時期やたらと聴いていたため、勝手にそう考えているだけともいう。

 

手元に5枚のアナログ盤があるが、「プリーズ・ドント・エバー・チェンジ」はジャケット違いで2枚あるので、実質4枚となる。しかもセカンド・アルバムの「デスパイト・イット・オール」はご丁寧にファクトリー・シールまで貼られたシュリンク付きの未開封盤である。残るサードの「シルヴァー・ピストル」と4枚目「ナーヴァス・オン・ザ・ロード」、実質この2枚が自分にとってのブリンズレーなのだ。解散するころに中ヒットし、コステロも歌った「ピース、ラヴ・アンド・アンダースタンディング」が代表曲なのだろうが、アナログでは持っていない。ドはまりしていた頃も、実はコンピレーションCDで繰り返し聴いていた。1990年代前半、いっときだけ仲がよかった友人が自宅に遊びにくるたび、聴きたがったのが前記2枚なのである。

 

結局、自分にとってのブリンズレー・シュウォーツは、バーボンの香りとともに、緩い記憶の中に存在し続けているバンドなのである。集中して聴くでもなし、ああだ、こうだと文句に近い勝手な評を垂れながらも、ついつい聴いていた。宿酔いの吐き気とともに「またこれを聴いたんだっけ、まったく飽きない音楽だな」と毎度同じことを考えていた。

 

ダンス・ミュージックばかりが流行っていた時期でもあり、既に30代なかばの自分はオルタナもグランジもハマれるものではなかった。たまたまやたらと強い酒が飲みたくなる日々で、たまたま好きな音楽がない時期、そっと心の隙間に入り込んできて、何ら難しいことはやっていない心底イージーな演奏が実に心地よかった。20数年前の曖昧な記憶だが、毎度救われた気分になっていたことも確かだ。先行きの見えない閉塞感に満ち満ちた今だからこそ聴くべき音楽はこれなのだろうか。時間はあるのだ、一度集中して聴いてみるか。

 


   

         
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