0269 ルーツ・ロックに合う酒は(2020.05.31.

自粛明けの試運転が始まり、毎日BGMを選べないほど猛烈に疲れている。時間が止まっていたという感覚を演出して自粛前のヘヴィ・ローテーションだったものに戻るか、ここ6週間ほどで見つけた新しいものを聴くか、おなじみの70年代ロックを聴くか。「お客さんの好みもあるだろうから、その辺りを勘案しながら気分でかけるかな」などとスタッフには話していたわりに、いざとなると手が止まってしまう。営業中に無音はまずいので適当にかけることはかけるが、「これじゃないな」ということで1~2分で換えてしまうこと数回、どうにも調子が出ない。調理の感覚は戻ってきているのに、意外なところに落し穴があった。BGMがどうでもよくなるほど疲れていると自覚することすら時間がかかってしまった。そう、猛烈に疲れているのだ。

 

日々の繰り返しに加えて、曜日による買出しや注文、月ごとの定期配送など、様々な店舗運営のリズムがガチャガチャに崩れてしまっているのだ。足りないと思うものをスタッフの助けも借りて買い集めたり、慌てて注文したり、雑事にも忙殺されている。さらには周囲の環境変化にも敏感になっているらしい。ホンの6週間休んでいた間に3軒が無くなり、3軒が新規オープンしていた。恐らく他にもあるのだろう。清澄白河は相変わらず大きく動いている。5年と少々続いているというだけで、自分たちが古株扱いされることもあるのだ。深川には100年続いている老舗がいくつもあることを知っているだけに全力で否定するが、店舗を続けるということがこれほど難しいとは思ってもいなかった。

 

自粛前はルーツ・ロック系のBGMを流していることが多かった。4月にアメリカン・ロックの、5月にTOTOのメンバーが参加している音源のイベントを開催する予定だったので、BGMがアメリカ寄りになっていたのだ。その中でも、最近の音源を一生懸命探しては流していた。ラーキン・ポー、サマンサ・フィッシュ、アンダース・オズボーン、ルーサー・ディッキンソンあたりのブルースがベースにあるロック、もしくはもろブルースに近い音源がJBLのスピーカーによく馴染む。やはりクラシックなどを聴くスピーカーではない。

 

そもそもマッスル・ショールズ界隈やアメリカ南部の埃臭いルーツ・ロックが好きだというお客様と話していて、「こんなのならあるよ」と、ノース・ミシシッピー・オールスターズやライアン・ビンガムのレコードをかけたことがきっかけだった。2009年に公開されたジェフ・ブリッジス主演の映画「クレイジー・ハート」あたりで、最も盛り上がりを見せていたカントリー・ロック・シーンの時点で、自分の音楽趣味が一回ストップしているのだ。東日本大震災と原発事故のバタバタと体を壊してしまったことが直接の原因でもあるが、目新しいものに目が行かなくなってしまったのだ。またブルース・スプリングスティーンの「ザ・シーガー・セッションズ」を聴いて、ピート・シーガーの音源にあたり、加えてウディ・ガスリーなどの古いアメリカン・ミュージックを掘り下げ始めてしまったのだ。行きついたところは、スコット・ジョプリンのラグタイム・ピアノやジャズの創始者とも言われたビックス・バイダーベックだったりもする。さすがにそこから新たな発展はない。

 

その少し前にはジャスティン・タウンズ・アールやキャロライナ・チョコレート・ドロップスなども夢中で聴いた時期があったが、最近のボブ・ディランがやっているようなアメリカーナなども面白くなっていた時期でもあった。ジョン・スコフィールドがジョン・クリアリーをフィーチャーしてニュー・オリンズ・サウンドを現代的に消化してみせたアルバム「パイエティ・ストリート」などは、生涯を通してのマイ・ベスト・テンにランクインする。ニュー・オリンズに関しては、安定のドクター・ジョンという流れもあるが、自分にとってはプロフェッサー・ロングヘアの方が断然好きだったので、随分深く掘り下げてきたつもりでいた。それが、まだまだ素晴らしいものがいっぱいあることに気づかされてしまったので、少々お手上げ状態になってもいたのである。加えて新世代のミュージシャンがあまりに素晴らしいアーティスト、特に上手い女性ギタリストが多く、研究するのにそれなりの時間を要したこともあったのだ。

 

今後は音楽イベントをやるのもかなり工夫しないといけない。そもそもイベントをキッチンで支えてくれていたスタッフが、コロナの影響もあっていなくなってしまったのだ。店の態勢そのものも見直さなければいけなくなってしまった。本当は、今回のテーマにあうお酒を紹介したり試飲したりすることもやってみたいなあと以前から考えていたのだが、さてどうしたものか。アメリカーナやルーツ・ロックなどロードサイドの酒場が似合いそうな音楽にはやはりバーボンだろう。バーボンのハイ・ボール試飲で簡単に済ませるのもいいが、バーボンの飲み比べもやってみたい。ロックで飲む場合は水代わりのビールをチェイサーにといった飲み方がよかろう。バーボンの甘い香りまみれつつ痺れた脳みそに突き刺さるバリバリのスライド・ギター、最高ではないか。

 


   

         
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